第134話

私は今更な事を考えながら料理の仕上げに入る。といっても今回は簡単だ。


豚骨スペアリブの味噌煮込みは温めればいいし、チーズオムレツは素早さが命だ。最後に一気に作り上げれば問題ない。今回は一番手間のかかる揚げ物を最初に始めるのが王道だと思う。手順を頭の中で組み立てつつ、衣をつけながらフライの揚げていく準備を始める。油を温めていく。魚の大きさは中くらいにした。一口サイズの方が食べやすくて良い気もしたのだが、揚がり具合に自信が持てなかったので、中くらいにして多少失敗をしても誤魔化せるサイズにした。


これもどうかとも思ったが、私の苦手な魚料理を指定した陛下が悪い(八つ当たりとも言う)、ということで自分に納得させる。




揚げ油を温めながら衣をつけていると、作業の工程がわかるせいか隊長さんがチラチラ私の方を見ていた。どう見ても料理を手伝いたいアピールだ。視線に圧力を感じながら見えない振りをする。




隊長さん、今日はダメだって分かってるでしょう?視線で言葉を語らない。圧力をかけない。私は負けないからね。


圧力に耐えつつ、フライの準備を淡々と進めていく。


フライの準備は終わっても油はもう少し温める必要があったので、卵やチーズなどの細々した用意も済ませておく。


そうしながら油の用意が整うと、フライを揚げていく。他のコンロで煮物を温め、ついでにすまし汁も作ったので温めておく。副菜関係はいくつかまとめて用意したので、その場で私が取り分ける事にした。小鉢をいくつも用意すると最後の洗い物が面倒になるので、そこは目を瞑ってもらいたい。


言い訳を胸の内で呟きながら準備は順調だ。


フライが揚がり味噌煮込みも温まったので、チーズオムレツに取り掛かる。マヨネーズがないので卵液の中に少しだけ水を加える。そうすると牛乳で作るよりフワフワになりやすいのだ。


オムレツもシェアではなく一人、一つづつ用意することにした。その方が気兼ねなく、食べてもらえると思ったからだ。欠食児童たちの教訓を生かしているともいう。


チーズオムレツを焼く前に他のものは配膳を済ませておく。


そうすればチーズオムレツが固くなるのを少しでも遅らせることができるはずだ。




テーブルの上には一人分づつの配膳を済ませ、副菜も用意は終わらせていた。後は簡単に私が取り分けるだけだ。食後の片づけが楽になるようにしているのは気が付かないでもらいたい。


遠足は家に帰りつくまでが遠足なように、料理も後片付けまでは料理です、の教訓は私の中で生きている。しかし面倒は面倒なのでそのため、手間を省けるところはいくらでも省きたい、と考えている。




オムレツの形成が綺麗に出来るように神経を使うので、その前に私は違うことを考えて気を紛らさせていた。魚料理ほどではないが人に提供するものに気を遣うのは仕方がない。私はとりとめのない事を考えていた。


気がそれていても手は動く、自動的に卵液を作りながらフライパンを温める。バターを溶かして卵液をその中へ入れていく、チーズを投入するとフライパンを動かしながら形を作る。私にとっての最大の問題はフライパンが重たいことだ。両手で動かすと形が綺麗に出来ないし、片手だと重たいし、火を弱めると美味しくないし、練習が大変だった。その成果が今日は出ていると思いたい。


そうして3人分を作り上げると隊長さんに手伝ってもらいながら陛下へ提供する。




「お待たせしました。陛下のリクエストの料理になります。見て頂ければお分かりと思いますが、手前の卵料理がチーズオムレツになります。奥の肉料理が豚骨の味噌煮です。揚げ物は白身魚のフライです。副菜は私の方で取り分けますので」


「オムレツはともかく、他のものは見たことがないな。肉料理はあまり嗅いだことのない匂いがする」


「陛下。大丈夫ですか?気が進まないのであれば、簡単ではありますが別なものを用意しますが?いかがしましょうか?」


「いや、大丈夫だ。初めて食べるものは興味深い」


あまり嗅いだこのない匂いと聞いて失敗したと思った。商人をはじめトリオは私の料理に慣れているので、味噌の香りに忌避感がない。しかし陛下は前回の時は味噌汁に使用しただけでメインには使用していない。味噌汁が平気そうだったので今回も使用してみたが、陛下の反応で一瞬失敗したかと不安になった。だが意外に平気そうだ。


わたしはそのことにホッとすると陛下たちに料理を勧める。


やっと昼食会がスタートできそうだ。

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