第98話

「お待たせいたしました。どうぞ、ダイニングの方へ」




客間で寛いでいた陛下と宰相を、ダイニングへ案内する。


隣の隊長さんも無言で私と歩いていた。 




正確に言うと、客間で陛下を見た瞬間に無言になった。




なんでだろう?それまではそんなに不機嫌な様子は見られなかったのに。




私は不思議だったが、それ以上の追求はやめておいた。追求するのは良くない気がする。


うん、やめておこう。


藪をつついて蛇を出す気はない。




結論を出した私は、隊長さんに同調してダイニングへと移動した。




広くはない離れだ、すぐに着いてしまう。


狭いと言っても、この国の基準で狭いだけで私の庶民基準で行くと、平屋の一軒家くらいはあると感じでいた。




ダイニングへ入ると、改めて陛下たちに向き直り今日のお礼を伝える。 




「お忙しい中、本日はお時間を頂き、ありがとうございます。精一杯のおもてなしをさせていただきたいと思います。楽しんでいただけたら幸いです」


「今日はありがとう、姫。城下では新しい料理で持ちきりだと聞いている。楽しみにしている」


「本日は私まで、お招きありがとうございます」


陛下と宰相に来ていただいたお礼を述べると、二人からも返礼があった。


それを受けるとテーブルへと改めて案内する。




本来なら侍女さんや侍従さんの役目だが、それを担う人物はいないため、隊長さんにお願いした。




私は料理を作ったり出したりする必要があるので、そこまでの余裕はないのだ。 




隊長さんに案内されて、陛下は気にした様子はないけど宰相はギョとしていた。本来ならこんな事は頼めないし、頼まれてもしない人なのかもしれない。そんな事に後から気がついてしまった。




まずかったかな?




宰相の反応を見て、不安にかられながら突き出しを用意する。  




陛下はのんびりと隊長さんに話しかけていた。




内容まではしっかり聞こえないけど、ぼんやりと今日の料理はどんなものかを聞いているようだった。


隊長さんの返事までは聞こえてこない。


宰相は借りてきた猫の様に、ひたすら大人しくしている。




今日の離れは、ちょっとしたカオス状態なので、宰相の気持ちはわからなくもない。


陛下と陛下の親戚が話をしていて、私は肩書だけなら宰相よりも上になる。


そんな中に座っているなら大人しくしている方が、無難だと誰でも思うだろう。




ダイニングを横目に見ながら、突き出しやサラダの準備が終わる。




何も知らない顔をしてダイニングへ運んだ。


今日のメニューは、本気の居酒屋メニューだ。




この間みんなに試食をしてもらったメニューを、中心に用意をした。




燻製物からは燻製チーズ、スモークナッツ。サラダはあっさりとした和風サラダ。


さっぱり系は突き出しとして、酢のものを用意している。


卵料理は、厚焼き玉子。燻卵を作らなかったのは、卵料理で被ってしまうので今回は外した形だ。それに今後、同じようなことがあったときのために、料理のレパートリーは少しでも、残しておきたい気持ちもあったためだ。




揚げ物からはみんなの好評だった、フライドポテト、唐揚げになる。


唐揚げは隊長さんのリクエストだ。商人の『美味しい自慢』を聞いて我慢ができなかったらしい。


是非、と力強いリクエストをもらってしまった。


揚げるのは同じだし、手間はそんなに変わらないから、メニューの一つに加えてみた。唐揚げは美味しいし、私的には『お家ご飯』の部類と思っているけど、人によっては『居酒屋メニュー』とも言える、と判断したからだ。




そしてメインはアツアツ料理代表(?)のピザだ。これはみんなの反応が一番良かったからである。


なにせ、いい大人が欠食児童に変身するのだから。美味しさは推して知るべしと言ったところだろう。


あの欠食児童ぶりについては、初めは微笑ましかったけど、後はあ然としてしまった。


逸話付きのメニューだ。




お酒については隊長さんと商人の知恵を借りた。


私はお酒は飲めないので(成人していない)試食をした人たちが、何を呑みたいかを参考にするしかなかったからだ。




もちろん炭酸水はないが、エール・ワイン・蒸留酒・醸造酒はあった。


ハイボールやカクテルのような、すっきり系の飲み物は難しいようだが、お酒の種類があるのが救いだった。


水や氷はあるのでその辺を工夫して対応することを決めた。


季節的にも対応がしやすい事に自分の運の良さを感じていた。




私は食べるのが好きな事同様に、お酒を呑むのも大好きだ。


前の生活では一人呑みもよく行っていた。


いわゆるお一人様、というやつだ。おじ様達が行くような飲み屋さんも大好きだった。


お酒には詳しくはないが、それなりに呑み方は知っているつもりだ。


その知識をフルに使って美味しく・楽しく過ごしてもらおうと思っている。




『料理の許可をもらおう大作戦』は忘れていない。


しかし日本人の習性なのか『おもてなし』の気持ちが出てきていた。


だが、おもてなしがうまくいけば、物事は自然と上手く行くものだと信じている。




「がんばろう」


私はもう一度小さく呟いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る