第99話
突き出しの酢のものとサラダを並べる。その横には出汁巻き卵だ。
まずは醸造酒を出す。匂いだけ確認(年齢的に私は呑めない)したら、日本酒のような匂いがした。後味を聞いたら、少し辛い感じがすると言われたので日本酒に近いと判断したのだ。
ちなみに何から作られてるのかは商人も知らなかった。今度原材料を調べてもらおうと思っている。
そのため、だし巻き卵と酢の物に合わせることにした。本当ならサラダには合わないのだが、知らない料理だけだと、食べられなかったときに忌避感が出てしまうので、知っているサラダも用意することにしたのだ。
私はサラダを取り皿にわけ、出汁巻き卵とは別皿にする。
同じ和風にしてはあるが、出汁巻き卵にドレッシング(手作り)が付いて味が変わるのを避けるためだ。
取り分けながら料理の説明をする。
「こちらの黄色いものは卵料理になります。卵を溶きほぐし、その中に出汁と呼ばれる液体を入れ、何層にも巻いて焼いたものです。小さなお皿に入っているものは酢の物です。お酢を砂糖、醤油等で味をつけ、その中に塩もみした野菜を和えたものになります。隣のサラダはお分かりになると思いますが、ドレッシングを変えてあります」
「ドレッシング?」
宰相からオウム返しに質問がきたので、説明に交えながら返答をしておく
「ドレッシングは、サラダを食べるための液状のたれ、だと思っていただければ良いかと。今回はそのドレッシングに醤油を使用しています。他の料理と合わせた形になりますね」
そう説明すると、隊長さんを除く二人は、皿を持ち上げサラダや酢の物を眺めている。
この国の人たちは、珍しいものや初めて見るものは、持ち上げて見る癖でもあるのだろうか?
これは国民性?
そういえば、管理番や商人達も初めて食べたとき、皿を持ち上げて眺めていた事を思い出す。
お酒は少し温めている。日本酒で言うところのぬる燗だ。
今は少し肌寒い季節になってきているので、身体を暖めるためだ。
もう一つは、この国では温めたお酒を呑む事はないらしい。
珍しさも手伝って興味を惹かれると思い、ぬる燗にしたのだ。
陛下や宰相の前にぬる燗を置く。
二人、いや隊長さんも含めて三人はぬる燗を覗き込んでいる。
徳利はもちろんなかったので、持ち手のない大きめのカップを湯煎した。カップを使用しているので、一人に一つずつ用意する。小さいので三人分では足りない気がしたのだ。
注ぎ口がないので注ぎにくいのが難点だが、テクニック(?)でカバーしよう。
当然だが呑むためのぐい呑みや、おちょこもない。
これは小さいグラスを用意した。デザートワインを呑むときに使用するものを流用している。
席に着いている男性陣は何をするのかわからず、ただジッとしている。
この次が予想できないので、固まるしかないのだろう。
私は陛下から順に注いで回る。身分から言えば宰相が最後になるのだが、私の感覚では、隊長さんは私サイドの人だと認識しているので、隊長さんを最後にした。
一瞬、怒られるかと心配したが、隊長さんから頷きが返ってきたので問題ないようだ。
「まずはお酒を一口どうぞ。少し温めてありますので、そのおつもりでお願いいたします。できましたら、一度口に含み、香りを感じていただければと思います。」
三人にお酒を呑むように促したが、隊長さんが笑いながら訂正してくれた。
「まずは私からですね。始めにいただきます」
そうだった、うっかり毒味してもらうのを忘れていた。
隊長さんが全種類を少しづつ食べていく。
ほとんど形式的なものなので、宰相も特に問題視する様子はなかった。
それを見届けた陛下はさっそくお酒を口にした。
「ほう、いつもとは違うな」
陛下がぬる燗に反応する。私のアドバイス(?)に従い口に含んでから、飲み込んでくれていた。香りを感じられたかはわからないが、反応は悪くないようだ。
宰相や隊長さんは無言だ。気に入らないのかと思ったら、意外に味わっているようだ。少し目を閉じ口の中で転がしているように見えた。
その後隊長さんは無言を継続しながら、二杯目を注いでる。自分だけでは悪いと思ったのか、陛下と宰相にも注いでいた。
席に着いたまま注いでいる。話しやすいように全員の席は少し近い感じになっている、それと隊長さんの手が長いからできる芸当だ。
ちょっと、最初から飛ばすと後が続かないんだけど。大丈夫かな?
私はハイペースが心配になったので、気付かれないようにぬる燗のコップを気持ち遠ざける。
無意味な気がするが、合図に気がつく事を祈っておこう。
「これは良いな。身体が暖まる気がする」
「ありがとうございます。先ずは酢の物か、出汁巻き卵から口にしていただけたらと思います」
「理由があるのかな?」
「理由と言うほどのものではありませんが、口の中を温めているので、出汁巻き卵なら出汁の香りが、口の中に広がって、より感じることができると思います。酢の物なら、冷たさを感じて、お酢の香と醤油の風味を感じる事ができるでしょう。サラダでも良いのですが、生野菜はお酒の風味が損なわれやすいので、何かを口にされてからの方がよろしいかと。ただ、これは私の感覚なので『絶対に』というわけではありません。参考の一環にしていただければ思います」
私の話を聞き終わった瞬間それぞれにフォークを伸ばしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます