第90話

お皿の中身がなくなったので、メニューの相談をすることにした。


今日、1番の目的なので忘れないうちに決めてしまいたい。




本当なら…お酒も途中で出して、料理との相性も見るはずだったのに、そんな暇はどこにもなかった。




隊長さん、あなたは知っていたはずよね?お酒と合う料理を、と勧めてくれたのは、あなたなんだから。


お酒を出す前に食べ尽くすなんて、思っても見なかったわ。呆れてものが言えない。




そんな思いがあったが、私は全てを飲み込んで、メニューの決定に移ることにした。




「それで、どれを出せば良いと思う?」




一人、口をもぐもぐさせながら問いかける。ちなみに、今食べているのは、お皿に乗せられなかった分を分けておいたので、それをワンプレートにして食べている。




お行儀が悪い気がするけど、許してもらいたい。


私の食べる分は残ってなかったし、お腹が空いているから食べずに我慢する(私はお腹が空くと機嫌が悪くなる)、なんてできなかった。




返事は全会一致で返ってきた。


全員の息が合っていて、一糸乱れず一言。


「「「全部です」」」


「全部?」


「「「はい。全部です」」」


「そうなの?私は気に入らないのもあると思ってたんだけど」




私の戸惑いをよそに、3人から(トリオかな?)口々に否定の言葉が返ってくる。




「この中から、選ばないといけない、理由がわかりませんが」


「どれも美味しかったです、選べません」


「珍しい料理は、陛下の興味を引けます。説得には丁度良いかと」




勢いがすごすぎる。とりあえず、言いたい内容は聞き分けたけど、ほぼ同時にしゃべるのは止めてほしい。誰が何を言ったかまではわからなかった。


私は聖徳太子じゃないから、無理だからね。


商人が珍しく身を乗りださなかったのは、隊長さんがいるからだろうか? 




私の方が引き気味になったが、自分の意見は出しておかないと、後が困ってしまう。




「でもね。次に何かあったときのために、少し種類はとっておきたいな、とも思ってるのよ」


「全部でいきましょう。全部で、私達の首のために」




隊長さんが力を込めて言ってきた。私は言う意味がわからず、可愛く言うなら小鳥の様に、首を斜めにしてしまった。




首のために?どういう事?


心の声が聞こえたのか隊長さんが説明してくれる。


「姫様。この中で食べられないもの、美味しくないもの、があれば外して良かったと思うのですが、全部美味しかったんですよ。その事を後から知ったら。陛下が、何と言うと思いますか?」


「そういう事ね」




私は納得した。確かに自分に内緒にされると、気分はよろしくないと思う。それで首がどうこう、と言うのは隊長さんが大げさに言ってるだろうけど、食べ物の恨みは恐ろしい。とも言うから、それぐらいの事だと言いたいのだろう。 




そして自分の、英断に自分を褒める。


私、第2弾。


とっといて良かったと、偉い。私。 




「じゃあ、このメニューで良いわね」


「はい。良いと思います」


「足りるかな?」


「どっちがですか?」


「種類。少しは取っておくつもりだったけど、出すとなると心配になってくるわね」 


「充分ですよ」




隊長さんの力強い請負に私はホッとする。


これで陛下を説得できると思うと、先が見えた気になるが、見落としていた事があった。


それに気がつくと血の気が引くのがわかる。


私の顔は紙のように白くなっているだろう。




「姫様?どうなさいました?」


管理番が最初に声をかけてくれた。


私の変化に最初に気がついてくれるのは、いつも管理番だ。




「管理番、私、今気がついたんだけど。どうやって陛下を招待したら良い?場所もここで良いのかな?」




そう、どこに招待するか、招待の理由をどうするか?


まさか『料理の許可をもらおう大作戦』をするので来てください。なんて言える訳がない。


始めに気づくべきだったのに、自分の迂闊さにがっくりと、肩を落してしまう。




「簡単ですよ。珍しいですね。こんな簡単なことを見落とすなんて」


商人が学校で意見を言うときのように、片手を肩の高さに上げて挙手している。今にも『はい、先生』と言い出しそうだ。




私は救いを求めるように、商人を見た。それに答えるように声が響いてくる。




「陛下にキッチンと離れの改装のお礼をしたい。せっかくなので、頂いたキッチンを使って、食事を振る舞いたい。で、大丈夫じゃありませんか?」


「それで大丈夫かな?」




普通のお宅なら大丈夫だと思う。それこそ、商人や管理番なら、気にすることなく、その理由で招待するだろう。


いやこのメンツなら理由すら不要だ。『ご飯食べに来ない?』で充分だ。




しかし、相手は陛下と宰相だ。この国のツートップを呼ぶ理由になるのか。


葛藤が分かったのか、隊長さんが太鼓判を押す。


「その理由で大丈夫ですよ。私は最初からそのつもりでしたし。姫様もその理由を、使うと思っていたんですが」


「そうなの?隊長さんはそのつもりだったんだ。教えてよ。私、心配しちゃったじゃない」


「いえ、何も仰らないので、そのつもりなのだろうと」




なるほど、コミュニケーション不足だったのね。 


前回の反省が活用できてないな。




反省しよう。




その時、管理番が心配そうに確認をしてきた。


「姫様。毒味はどうされるのですか?姫様が料理をされるのなら、毒味役を選ぶのが難しいと思いますが」


「私が作っても毒味は必要?」


「一応、形だけでも居た方が宜しいかと」


王宮の官吏の一人でもある管理番が言うと説得力がある。確かに前に料理を出すのを断った理由も体調不良になられたら困るからだ。そう思うと必要になるだろう。




「私が毒味では意味がないわよね?」


一応の確認。


「だめでしょうね」


商人わかっていたダメ出しをありがとう。


さて、どうしようか。


頭を悩ませ始めようとしたとき、隊長さんから一言。


「私がすれば問題ないでしょう」


「隊長さんが引き受けてくれるの?」


「姫様が変な料理を作るはずが有りませんし、私がその場で毒味をすれば、料理も温かいままで1番良いと思います」


「ありがとう。助かるわ」


難解な問題があっさりと片付いて、私はホッとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る