第73話

「いや、私は真面目に言っているのだが?」 




私の反応の鈍さに陛下が追加発言をした




何言っちゃってんの?


なら、なおさらだめでしょう




私はポカンと陛下を見る。


陛下は笑いながら楽しそうに言い募った。




「いや、本当に真面目な話だ。姫の聡明さと先を見る力。そして大と小を分けて考えられる判断力。公平さ。何よりも私に発言できる胆力。これだけの資質を備えているのだ。逃したくはないな‥年頃も息子とまぁ、考えられる年齢内だ。どうかな?」


「どうかな?っと言われても…」




とっさに『何馬鹿なこと言ってるの?』と言いそうになった。言わなかった私は自分でも偉いと思う。


そして力尽きた。何より色んなことがあり過ぎた。頭の中は夏場のアイスクリームの様に溶けきっている。 


せっかく褒めてもらったが判断力はゼロだ。




「陛下、せっかく褒めて頂きましたが。今の私は何も考えられません。他の事に気を取られすぎて、判断できない状態です。なので、このお話は陛下の『冗談だった』という事でお願いします」 




投げられた爆弾を投げ返す。


宰相、管理番、騎士さんは目を大きく、これ以上はないほど大きく開いていた。




そうよね。普通はこんな事を言わないわ… 


うん。言わないと自分でも思う。かなりの塩対応だ。


この状況(被害者)でなければ不敬罪、まっしぐら。


侍女たちと同様、牢屋行きでもおかしくない発言だろう。




普通は陛下(大陸の支配者でもある)からの縁談だもの、大喜びで、例え冗談でも、大喜びで頷くはず。二つ返事で『イエス』って言うわよね。うん。特に家みたいな小国ならなおさらだ。




ここに居るのが私だけで良かった。


家の親(国王)がいたら喜んで陛下の手を握ってるはず


『よろしくお願いします』って、握った手を音が出るぐらいに、上下に振っているのが想像できる。


私はこの場に居るのが、自分だけである幸運を心の底から安堵した。




「そうか、返事は貰えない、と」


陛下から『はい』じゃないの?みたいな副音声が聞こえて来るが、そこは聞こえない振りをする。


私は態度が悪いと思いながらも、こめかみを揉みつつ


「冗談に、真面目に答える必要はないかと・・・」




これ以上は何も言いません。と言う思いを込めて唇を引き結ぶ。


視線にも思いを込めてみた。


「だめか?」


陛下が重ねてきたが、目を閉じ聞こえない振りを継続




「まあ、仕方ないな、本来なら姫にする話ではないしな」




やはり分かった上で、この縁談の話をしていたらしい。


そう、本来ならこの話は、私ではなく父にするべきだ。国同士、王侯貴族の縁談は本人の意思は関係ない。


国同士の繋がりのために結ばれるもの。


だからこそ、この話を私にした時点で、陛下の真意がどこにあるかは不明だった。




「姫。今日は冗談としておこう。しかし、時期が来ればそなたの父と話すことがあるだろう、そのつもりでな」


「・・・」




私は言葉を飲み込んだ。出そうになった言葉は『うそでしょう?』『冗談はやめて』だった。


言いたいことは、山のようにあったが、それを口にすると話が長くなる。


早く部屋に帰りたい私は、全ての言葉を飲み込む。


返事をしない私に気分を害する様子もなく、陛下の独壇場は終わりに向かう




「姫も疲れたようだな。そろそろ部屋で休むと良いだろうと、言いたいが部屋に戻すのもな」




え?私、部屋に戻れないの?




表情だけで言いたいことを感じてくれたのか


「鉄格子が付いたあの部屋に、帰せる訳が無いだろう」




なるほど・・・そういうことね。私は気にしないんだけど・・・


防犯用と思えばいいし・・・今まであそこにいたし、何よりキッチンがあるから


あの部屋から動くのはちょっと・・


そのままを言っても許されるかな?


そもそも自室で過ごすことは殆ど無くて、寝るときだけくらいだからな・・


気にしないのに・・・


とにかく、あの部屋から動くことは断固拒否、徹底的拒否してやる




「お気遣いありがとうございます。ですがあの部屋で長く過ごしていましたので。大丈夫ですわ。部屋に戻りたいと思います。」


『帰らせろ』と言う思いを視線に込め、陛下に言ってみたが相手にされなかった。




「いや、今日から後宮の方を使うと良い。直ぐに部屋を用意させるが、今日は間に合わないだろうから客間を用意させる。そちらを使うように」




いったいなんの罰ゲームだ?


何で私が、部屋を移らないといけないの?


いや、あの部屋の鉄格子が問題、というのはわかるけど・・・私は良いって言ってるよね?


嫌がらせ?いやがらせなの?


陛下は厚意のつもりかも知れないけど、私からしたら嫌がらせ以外のなにものでもないわ


どうやって止めればいい??




私は忙しく頭の中を動かしていく、しかし夏場のアイスクリーム状態の頭では良い案は浮かんで来ない。




「衣装も新しいものを、明日までには用意させよう。管理番。用意できるな?」


口調は問い掛けだったが実質的な命令だ。


管理番は迷うことなく『良い子の返事』をしている




ちょっと管理番、なに勝手に返事してるの、私はOKしてないわ




なんでこーなる?


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