第65話

「二人とも見苦しいな」


陛下の前で罪のなすりつけ合いをしている二人を、部屋にいる全員が呆れたように眺めている。


二人の言い合いを黙って聞いているだけで、事の真相は解明されていく。




この二人、自分たちがどこにいるか忘れているのかしら?


喋っている内容を皆、聞いているのに。それとも喧嘩という名の自白なのかしら?


そうだとするともったいないわね。ちゃんと自白すれば陛下も話を聞いてくださるでしょうに


まあ、そんなことはないんでしょうけど・・・




「いい加減にしてはどうかな?」


宰相の制止が入る。


二人は同時に周囲を見回した。自分たちの失態に気がついたようである。


言い合いをしている間は興奮していて真っ赤な頬をしていたが、一瞬にして血の気が引いている。


赤くなったり青くなったり忙しいことだ。




宰相は淡々と事を進めていく。事務能力が優秀なのはこの冷静さから間違いないだろう。




「ではあなたたちの罪の内容をまとめましょうか?


1 姫の品格維持費の横領


2 偽証罪


3 ネグレクト でよろしいですかね?」




「よくもまあいろいろしてくれたものだ・・姫は国の客人だぞ、わかっているのだろうな?私の顔に泥を塗っただけでなく。国の信用もおとしめたのだ。覚悟はあるのだろうな」


陛下のこめかみに怒りのマークが見える。




陛下の気持ちも分からなくはない。


私も聞いていて驚いた。




学校に通えないというのは嘘だった。


陛下や宰相がなかなか離れに来ることがないことを良いことに、私には『陛下から通えない』と言われたことにして、陛下には、私が『学校に行きたくないと言っている』、と言うことになっていた。


陛下も私も学校問題はデリケートなことで直接話し合うことがないと見越していたのだろう。


会うこともなかなかないし。


こうなると私が『会いたい』と言っても『会えないとの返事だった』、と断られた事になっていただろう。間に入る人間が信用できないとこんなことになるという良い見本だ。


良い勉強になった。




しかし、まんまと手の上で転がされた感じだ。




品格維持費に関しては離れの侍女全員(侍女長も含め4名)と金庫番がグルになっていたらしい。


どちらが持ちかけたかは正確ではないが、何となく侍女長が発端な感じがしている。




衣装やドレスを架空請求しその金額を全員で割っていたようだ。


私が離れから出ない事を良いことに、初めて来た年から続けていたらしい・・・


使い込みの内容は聞いていないが・・・何に使ったんだろう?




こうなると私は単なる金づるにしか見えないのも無理はない。


人に見つかっても言い訳が利く程度に面倒をみていたらしい。


確かに会話もないし衣装の追加とかもなかったしな・・・


庶民の私からするとあんまり気にしていなかったけど、貴族のお姫様からすると立派なネグレクトになるのかも・・




陛下の怒り具合をみると、陛下自身は私には友好的なつもりでいたのだろう・・・


でなければ人質同然の私に品格維持費を出したり、毎年誕生日プレゼントのリクエスト(蔑ろにはしていませんよアピールだと思っていた)を聞いたりはしないはずだ・・・




何か辻褄が合わない。部屋に鉄格子とかあるし・・・・


もしかして、陛下は私の部屋に鉄格子があるのを知らないのだろうか?


陛下は離れで見たことがあるのはキッチンだけだ。子供とはいえ一応女性の部類に入る私の部屋に陛下が入ることはできない。


まさかとは思うけど防犯のためとか言わないよね?




宰相が罪の確認をしている。往生際が悪く二人はダラダラと言い訳をしているが追求の手は緩められる事はないだろう。言葉巧みに聞きだされている。




二人(他の侍女も含め計5名)の罪は間違いない。




そうなると私の疑問も確認したい。


聞くなら今のタイミングしかないだろう

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