第50話
「このやり方で大丈夫なんですか?」
不安そうに商人が聞いてくる。
確かに不安だろう、商人からしたら見たこともない、聞いたこともない方法を教えているのだ。
契約書を交わした日から3日後、商人は改めて離れに来ていた。教えられた方法を自宅で練習し、その成果を私に見せるためだ。
「大丈夫って言ったでしょう?ほら、そんなこと言ってないで、ちゃんとやって頂戴。」
「そうですけど…」
「調理法はちゃんと覚えたの?」
「それは問題ありません。自分で作って食べても美味しいと思えました」
自信有りげに商人は答える。普段料理をしない人は自分で作ったものは美味しく思えるものだ。
後で作ったものを確認するため食べる必要があるだろう。そこには触れず
「だったら後は商人の腕次第よ。自信を持ってやってちょうだい。でなければかえって失敗するわよ。売上は商人の態度しだいなんだから」
「そうおっしゃられても… こんな事はしたことがなくて、見た事も聞いたこともないのですよ…恥ずかしいし…」
「何を女の子みたいな事を言ってるの?見た事はあるでしょう?私がしてみせたんだから。それに知らない人が多いから何よりも目を引いていいんじゃない、わかりやすいし。再現しやすい。あなたも同意したでしょう?」
「そうなんですが…私がするなんて、なんか…」
「そこはね… 離れに入れる人じゃないと教えられないもの… 限られてくるわ。そこは許してくれる?それとも、あなたが陛下に許可を取ってくれるの?」
「それは…」
「でしょう? 諦めて」
商人はため息をつく。それを横目に私は続けた。
「さぁ、始めるわよ」
「はい…」
泣き出しそうな商人の背中を叩いて頭から始めるように促した。
「さぁ、道行く皆様、ご覧ください。新しい調味料をご紹介いたします。」
「そこでお味噌を見えやすいように持ってね」
その言葉で商人は味噌を持ち上げる。
そう、私は商人に実演販売を指導している真っ最中だ。
この世界では行った事が無いであろう実演販売をアイデアとして提案したのである。
はじめて実演販売を説明した時に聞いた商人は、キョトンとしていた。『何言ってんの?』といった感じである。
なので私は一度商人に実演して見せ、納得させたのだ。その上で商店で練習して来るように伝え、今日、その結果を見せに来るようにと話していたのである。
私の実演販売を見たときは『すごい』と手を叩いて喜び、『売れる』 と大騒ぎをしたのに。私はそれで安心と満足感から頷きを返し、その上で商人に練習をしてくるように促した。その時は新しい手法を覚えると喜んで同意したのに、嬉しそうだったのに…
今頃になって…
『恥ずかしい』とか…びっくりだわ
たが、ここで手を緩めるつもりはない。
人様に見られるようになるまできっちり、しっかり覚えてもらいます。
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