第48話

私は唸り続けていたが決断をすることにした。というか、商人と交渉を開始することにした。




「ねぇ商人、ちょっと相談。というか…こうしない?」


商人は私から視線を反らさずじっと聞いている。


続きを聞く様子がある商人のためにそのまま話続ける。




「商人、私の料理法を聞いて、それから味噌や醤油を売るつもりなのよね?」


ここは確認。頷きがあった。私も同じ動作を繰り返す。




「それでね、料理法を知ったからって、なかなか売れるものではないと思うの?そこはあなたも分かっていると思うわ」


商人の面白くなさそうな顔からそこは予想していたようだ。




「そうよね。だから、私がアイデアも上げるわ。それをアイデア料として私に払ってほしいの。仕入れた商品でね」


「どういう意味でしょうか?」


商人にしては珍しく理解が出来ないようだ。




「簡単よ。私は料理法とアイデアを上げる。それで売れたら売上の一部を私に仕入れた商品で払う。」


「売れなかったら?」




予防線を張る商人。まぁ無理もない。何も聞かずに決断はしにくいだろう。本当ならアイデアの内容を聞きたいのだろうが、だがアイデアだけを持っていかれるのは困るから、交渉成立までは教えられない。




「それは仕方ないわね。でも、売れると思うわ。私の教えた方法ならね」


「自信があるようですね」


「もちろんよ」


「配分は…」




少し興味が出てきてたかな?




「そこは話し合い。と言いたいところだけど、欲張るのもね…あなたも私の話は半信半疑だろうし… どのくらいを考えてる?」




まずは探りから、大事です。




「姫様4 私が6では…」


「随分ね… 在庫を抱えて捌きたいのに、そのままだったらどうにもならないのよ?」




一応真っ当な事を言っておく。




「だからですよ。今までの在庫代や管理を考えると少し儲けるにはこのくらいでないと…」


「言いたいことはわかるけど、アイデアがないと売れないって事も忘れないでね…」


「そうですが…」




「こうしましょうよ。五分ずつ。」 


「…」


「これが一番良いと思うわ。あなたなら理由もわかるでしょう?」




アイデアと在庫、どちらもないと売れない。今後の事も考えるとあまり欲張れない。その上での五分だ。




「そうですが…」


「納得できない?」


「いえ、一番妥当だと思えます。」


「分かってくれて嬉しいわ。」


「では五分で…」


商人からの言質は取れた。第一段階はクリア。そう思っていると商人から思いもかけない事を言われる。




「姫様。私が売上をごまかしたらどうするんですか?」


「あら?誤魔化す気なの?」


「しませんよ。例え話です。」


慌てたように商人が言う。私を試すつもりが当てが外れたようだ。逆にからかわれるとは思ってもなかったのだろう。




「まぁ、真面目な話、あなたを信用するしかないわ。でもね、あなたは下手なことはしない。自信があるわ」


「何故でしょうか?姫様とは初対面ですが」 


商人が慎重になっている。


私を見極めたいのか… 


だが虚勢を張っても意味がない。いつもの私で…その上で判断してもらうしかないだろう。




「簡単よ。あなたは今までの関係性を作っている管理番を裏切れない。そして、管理番は人に嘘がつけない。それに管理番を騙すと言うことは王宮での取り引きが危ぶまれるということ。あなたは在庫を捌きたいだけなのに、そんな危険な事はしないでしょう?あなたは何のメリットもない事はしない。そう思ってもいるわ。違う?」




私は思わず含み笑いをしてしまう。


逆に商人は呆然とした顔になる。今まで見たことのない顔だ。


私の方が驚いてしまった。




「商人?どうしたの?」


「姫様、何度も失礼ですが…本当に9歳ですか?本当に…私は子供と話している気持ちにはなれないのですが…」


「商人、私は嘘はつかないわ。本当に9歳よ。」


今までの『お約束』とは違う感じがしたので真面目に答えておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る