第37話

「で、なんでこれだけの在庫を抱えていたの? 普通は売れないものは置かないものじゃない?」


「そうですね。普通は置きませんね。」


「やっぱり、そうよね。じゃぁ、これは何?」


私は目の前の在庫を指差す




「もちろん、私はあなた達のお店の在庫をとやかく言う資格はないけど、不思議だわ。お店の利益にはならない。場所を取って場所代だけかかっていくことになるでしょう?意味ある?」


「普通なら何の意味もありませんし。仰るとおり場所代だけかかって経費がかさむだけです。なんの利益も生みませんね。はっきり言って無駄な行為です」




商人は迷う様子も躊躇う様子もなく答えた。


私はその言葉に大きく頷き、自分の疑問が間違っていなかった事に納得する。そして疑問はそのままだ。




私の印象だがこの商人、人が良さそうだし柔らかい印象もあるが、無駄な事はしなさそうに見える。その考えをそのままぶつけてみた。




「あなたはそんな無駄なこと、しなさそうだわ。それなのにこの在庫?疑問ね… よけいなお世話でしょうけど…」




商人は呆気に取られたような顔をする。


「姫様… やはり9歳とは、なにかのまちがいでは?」


「その話、さっきもしたわよね?子供に見えるって言ってくれてたと思ったけど…」


「先程も言いましたが、子供は自分を子供と言いませんよ。」




つい数分前の問答を繰り返す。


私は白けたような半眼になり商人を見た。




「… で、私の疑問には答えてくれないの?まぁ、答える義務はないし、嫌なら無理にとは言えないけど…」


「そんな事はございません。簡単ですよ。これは在庫ではないからです」


「在庫ではない?」


「はい、そうです。」


オウムのように商人の言葉を繰り返した私を


商人は試すようにその先は言わない。そして何かを期待するような顔をしている。唇を湿らせ商人の『在庫ではない』を私は呟くと




「なるほど、そういうことね。あなたの個人的な物。簡単に言えば私物と言ったことかしら?」


「やっぱり、わかっちゃいましたか。そうです。私の私物なのです」




商人は嬉しそうに頬を緩め答えた。




私はダイニングの床をもう一度見る。


かなりの量だ。見える床面積が少なくなっている。この量を私物として抱えることができるならこの商人、かなりの手腕だろう。


管理番が紹介するだけあって城下でも上から数えた方が早い人物のようだ。




「商人は上から何番目なの?」


管理番に質問を振ってみた。


「えっと…?上から?」


管理番は質問の意味が分からなかったらしい。答える事ができない。


質問を重ねるよりも、管理番が聞き返すよりも早く商人が口を開く。




「僭越ながら上から数えた方が早いと自負をしております」


「そう… 確かにそうね、そんな感じがするわ。もう一つ、あなたは王宮の仕入れを一手に受けてるの?」


「流石にそれは… 他のものに恨まれてしまいますよ。憧れはしますが許されませんね。」


口元を緩めながら商人は言葉を発する。




「確かにそうね。他の人達との付き合いも大事だろうし。付き合えなければ今は良くても後が続かないだろうしね…」


「…姫様、本当に9歳ですか?」


今度は商人が半眼になった。




「何回目? 子供と答えたはずよ」 




この質問、そろそろお約束となっているらしい

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