第36話

私はその言葉と同時に一番手前にあった壷を手に取った。


躊躇うことなく蓋を開ける。そこには予想していた物があった。




味噌だ。私の好みでないが黒味噌だった。




私が手近な壷を開けたのは理由がある。味噌特有の匂いがしていたのだ。


キッチンの中には醤油、味噌などの独特の匂いが漂っているから間違いようがない。




味噌を確認した私は商人にも確認する。




「ねぇ、これは私が探していた味噌なんだけど、違う名前で認知されているのかしら?」


「味噌?これが、ですか?」


「そうよ、匂いで直ぐに分かったわ。醤油の匂いもするからあると思うんだけど。」 




私はそう話しながら別な瓶の蓋を開ける。


間違いない。これは醤油だ。




お約束の展開だわ~


ラノベの世界って御都合主義って思っていたけど、やっぱりこうなるんだね…


食の世界は使う材料で発展していくから、大豆が発展すれば同じようになるのかな…


なんか、納得…




私は醤油の瓶を手に持ちながら少し遠い目をしてしまった。




「姫様、手にお持ちの物は醤油、でございますか?お探しの物でお間違いございませんか?」


「ええ、間違いないわ」


「そうですか…」




商人は呆然としながら私を見ている。




「どうしたの?」


「いえ、もしやと思っていましたが、お探しのものがそれだとは… 驚いているのです」


「なぜ?もしかしたらって思っていたのでしょう?」


「そうですが… 先ほどもお話しましたが、この国では大豆商品を知る方はいらっしゃらなかったので…」


「そう…残念ね、こんなに良いものなのに…」




私は目の前にある荷物を見回した。




これだけの品揃えを誰も知らないなんて、…


本当に勿体ない…


その時ふっと、気がついたことがあった。




「ねぇ、誰も知らない、ということは『売れない』ということよね?それなのに、これだけの物を揃えていたの? 全部、在庫になっちゃうのに良かったの?」


「姫様にはかないませんね… 9歳と聞いていましたが、本当に9歳ですか?」


「子供に見えない?」


「いえ、とても可愛らしい姫様に見えます」




商人は苦笑いをしながら私を見ていた。 


だから見返しながらはっきりと告げる。




「そうでしょう? 私は立派な子供よ」


「姫様。申し訳ないのですが、子供は自分を子供とは言いませんよ」




いつか聞いた台詞を商人から言われてしまった。


おかしいな、私は立派な子供なのに…




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