第35話

「現物を持ってきているの?手ぶらみたいだけど?」


私は先程の『ざっくばらん』を定置させるため口調を崩す。




「ございます。離れに直接持ち込むのはどうかと思い。許可をいただけたら見ていただけるよう用意してございます」


「そうだったのね。分かったわ。全部見せて」


前のめりになり、私は食いついた。


その様子に商人が若干引き気味になる。




「かっ、畏まりました。直ぐに持ってこさせます」




商人はそう言うとドアを開け、外にいる誰かに話し掛けているようだ。 




「誰かいるの?」


「商店の者が二人おります。荷物を運び込むのに一人では無理ですから」


管理番の一言でかなりの量を持ち込んだのが分かった。キッチンに大勢入れるわけにはいかないから、ドアの前に待機させていた感じなのだろう。




「姫様。荷物を運び入れても?」


「ええ、お願い」




許可を出すと、観音開きのドアを大きく開け放つ。その間を商店の者だろう。男性が二人荷物をどんどん運び入れてくる。




ダイニングの床にカーペットがひかれた。


その上に重ならないよう注意しながら荷物が置いてかれる。


その光景をワクワクしながら見つめていた。




かなりの種類がある。


もしかしたら、やっぱり名前が違うだけで、私の望んだものがあるかもしれない。気が早いのはわかっていたが、手近な物から開けたくて仕方がなかった。




我慢我慢。いくらざっくばらんに、と言っても勝手に開けるのは良くないわ。




私は目を閉じながら修行僧の、気持ちで我慢する。




『お待たせいたしました。姫様、よろしければ手にとってご覧ください。その都度わたくしの方から説明をさせていただきます。』




私はその言葉で目を開く。


待ち望んでいた時間が来たようだ。

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