相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との

第1話 パレードとパーティー

「馬車の故障だなんてとんでもない事になりましたね」

「結婚式まで余裕を持って出てきて良かったわ」


 深い山を抜け馬車が坂を降りきると、町を一周する城壁と煉瓦造りの大きな建物や高い尖塔の聳える教会が見えてきた。


 城壁の入り口を入ると大通りの両脇に様々な商品を並べた商店が軒を連ね、道行く人に呼子が元気な声をかけている。


「何ですかね? 凄い人集りですよ」

「お祭りかしら? ちょっと覗いてみましょう」

「こんなに人が多いと危なくないですかね」


「大丈夫、ちょっとだけね。何だか楽しそうだじゃない?」


 馬車を預けあちこちの店を覗きながら大通りを歩いていくと町の中心らしき広場に着いた。

 広場には串焼きの美味しそうな匂いが漂い、見慣れない果物を山のように積んだ屋台が所狭しと並んでいる。その周りには小さな花束を抱えキラキラ輝くような笑顔の女性達とエールやワインで赤い顔をした男性達。




「お嬢さん、焼きリンゴはどうだい?」

「冷たい果実水はいかがですか?」


 あちこちの屋台から声がかかる。果実水を2つ買い屋台の主に聞いてみた。

「今日は、お祭りですの?」


「丁度良い時にきなすったね、今日は領主様の結婚式なんだ」

「もう直ぐパレードがあるから見ていくといいよ」

「綺麗な花嫁さんだって言うからみんな楽しみにしてるんだ」


「あら、領主様の結婚式ですの? 素敵ですわね」


「お嬢様、結婚式って?」

「しーっ。マーサ、パレードを覗いてみましょう」



 花束を抱えた女達がいそいそと街道に並びはじめた頃、遠くでラッパの音が鳴り響き街道に歓声が響き渡った。


 旗を持った騎士が先導し次に盛装した騎士が騎乗し前を通り過ぎた。その後ろを進んでくるのは一頭立てのカブリオレで、洒落た燕尾服の男が領民に手を振っており一段と歓声が大きくなった。


「宰相様相変わらず素敵だわ~」



 その次に花婿と花嫁が乗った白と金で装飾された華やかなキャリッジ。


 花嫁は赤い花嫁衣装に豪奢なティアラを被り、満面の笑みで手を振っている。

 領民が“プレンテ子沢山”と祝いの言葉を叫びながら手にした花や穀物の粒をキャリッジに向けて投げつけた。



 先程お嬢様と呼ばれた女性が大きな声で叫び両手を振った。

「ミリアーナ、結婚おめでとう!」


 花嫁が声の方向に顔を向け大きく目を見ひらいた。

「リディア、なんで・・」



 パレードが行き過ぎ興奮状態の人達が帰っていく。


「お嬢さん、花嫁さんの知り合いかい?」


 先程の屋台の主が声をかけた。


「ええ、そんなとこかしら」

「だったらこの後のお屋敷のパーティーに参加するんだろ?」

「うーん、どうしようかしら? ちょっと迷ってるのよね」

「何か物凄い豪華なパーティらしいけどその為に来たんじゃないのかい?」


「パーティーの参加ではなくて別の用事があったはずなんだけど」


「お嬢様そろそろ行きましょう。全くなんてことでしょう!」

 怒りに顔を赤らめたマーサがリディアに声をかけた。


「そうねお話楽しかったわ。ありがとう」



 お嬢様リディアとマーサは馬車に向けて歩き出した。


「一体何があったんでしょうか? あの衣装はお嬢様がデザインされたものですよね」

「そうね、それにまあなんとなく想像はつくんだけど私にとってはラッキーだから」

「それはそうですけど酷くありませんか?」

「お父様とお義母様は泣くわよね」



 先程のパレードでキャリッジに乗っていた花婿と花嫁は、の婚約者と義妹のミリアーナだった。





 パレードが終わりマナーハウス領主館に着いたミリアーナはこれから花嫁が使う予定の部屋に入った。


「何でリディアがあそこにいたのよ。馬車に細工したからまだ着かないはずだったでしょう?」


 ミリアーナはイライラと腹を立ててドスンと椅子に座り侍女を睨みつけた。



「思ったより早く修理出来たんでしょうねぇ」


「何呑気な事言ってるのよ。

リディアがここに乗り込んできたらどうするつもり? 折角結婚式が終わったって言うのに」


 鏡に向かって座ったミリアーナが侍女にしつこく文句を言い、きれいに整えた爪を噛んでいる。


「何にしましても、取り敢えず披露パーティーの準備をしませんと」


 ミリアーナが時計を見て慌てた。


「そうね、急いでちょうだい。リディアの事は何とかするしかないわ。

今夜を過ぎたら誰にも文句言えなくなるんだから」




 その頃リディアは馬車に揺られて来た道を逆戻りしていた。


「お嬢様、ミリアーナ様をあのまま放置しておいて宜しいんですか?」

「いいんじゃないかしら。私としては“ありがとう” って思ってるくらいだし。

ミリアーナの事はお父様達にお任せしましょう」


「ミリアーナ様はそんなに公爵夫人になりたかったんですかねぇ」

「そうみたいね、不思議だわ。だってあの方はねえ」


「このままお屋敷に帰られるんですか?」

「いいえ、先に商会に行くわ。あの子が逃げ出して来るまでに私が逃げなくちゃ。

返品不可って手紙を送ろうかしら」


 リディアがとても楽しそうに笑っている横で、マーサは腕を組んでため息をついた。




 その頃マナーハウスに着いたリディア達の両親が、綺麗に飾り立てられて既に来客もちらほらと見えるパーティー会場を見ながら立ち尽くしていた。


「なっ何故? 結婚式は来週の筈ではありませんか」


「ミリアーナが1日も早く結婚したいと言うものですから、私としても待つ必要はないと思いまして」

 ロバートの顔がにやけている。


「何故ミリアーナと? ロバート様の結婚相手はリディアだった筈ですわ」


「私の妻に相応しいのはミリアーナしかありません。

リディア嬢のような心卑しき女性などお断りです」


「心卑しき?」


「リディア嬢は長年に渡りミリアーナを虐めていたとか。

しかも商会の利益を我が物顔で独り占めしているなんて許し難い暴挙ですよ。それを許しておられたお二方にも一言物申したいと思っていたのですが、今日は祝いの席ですから後日改めて時間を作りましょう」


 ファルマス公爵の長男、ロバート・オーウェン子爵はミリアーナの肩を抱き両親に長口舌を振るった。


「リディアは妹を虐めたりなどしていませんし、商会の利益を独り占めって何か勘違いされているのではありませんか?」


「ご心配なく。今後商会については私が責任を持ちます。

勿論、今後はリディアの横暴を許すつもりはありませんから。そうなればあなた方にもいくらかの利益をお渡しできると思いますよ」


 ドヤ顔のロバートの横でミリアーナは顔を背けている。


「ミリアーナ? これは一体どういう事だ」



 ミリアーナが慌ててロバートの腕を取り、

「お父様、そう言う事だから今日はパーティーを楽しんでいって下さいな。

私達は皆さんにご挨拶しなくちゃ。ロバート様行きましょう」


「そうだね、失礼します。ではゆっくり楽しんで行って下さい」


 ミリアーナとロバートが立ち去り、後に残されたライリー父親アリシア義母は、


「パーティーを楽しめだと?」

「ありえないわ」



 リディア16歳、ミリアーナ15歳の春。


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