第44話

わたしとリサは向き合ったまま、会話を交わすことは無かった。というか、話すことが思いつかなかったという感じだ。


優等生と言われたわたしは、このままではいけない事だけは分かっていた。


思いつかななら気の向くままに話をすることにする。


「お兄さんとはどうなの? お兄さんはリサを気にしてくれているみたいだけど」


「お兄ちゃんはお母さんがいないときは優しいよ。でも、お母さんがいるときは別。お母さんの事を気にしてる」


「おじさんは?」


「お父さんは、よくわからないかな。あんまり話さないし。何を考えているのか分からないかも」


「そう」


リサの話に家族の歪みを感じた。しかしどうするべきだろう?友人としてはリサの憂いを晴らしてあげたい気がする。しかし、家族内の問題に自分がどこまで首を突っ込んでよいだろう?


家族内の問題はデリケートだ。余計な事をしてさらにこじらせる可能性もある。それを思うと二の足を済むが、ここは本人の希望を叶えたい気がする。


「リサ。どうしたい?」


「なにを?」


「この問題をこのままにするのか、それともハッキリさせるのか、という事よ。はっきりさせたいのなら、わたしも協力するわ。このままままでいいなら、何もしない。リサが我慢できるかどうかにかかっていると思うけど。リサの問題だからリサが決めた方が良いと思うの」


「はっきりさせたい。いつもでもこのままなんてイヤ。あんな家いつまでもいたくはない」


「わかった。わたしも協力する。試験運用が終わったらおばさんを問い詰めてみる。この問題をはっきりさせるには、おばさんが話してくれるのが一番いいと思うの」


「わかった。パル。手伝ってね」


「当然。頑張るね」




わたしとリサは協力関係を作ることにした。どちらかと言えばこの問題がハッキリして良い事だけがあるとは思えない。もしかしたらリサが思う以上に違う角度の答えが出てくる可能性もある。聞かなければよかった、と思う事も考えられるのだ。わたしはその可能性に気が付いていたが、リサの考えを支持することにした。


知らなければいい、と思うのは大人の身勝手な考え方だ。知ったうえで判断することも大事な事だ。


知らなければよかった、と思うのは知ってしまったから言える言葉だ。知らないうちはずっとその事が頭の中を支配する。気にして先に進めないのだ。知ってしまった事を受け止めて考えるのは知らなければできない事だ。どんなことでも。


わたしはリサが後悔する事も考慮した上でリサの知りたい、という考えに沿って行動を考える。


コンサルの仕事と同時進行になる。


コンサルは依頼を受けたものとして、リサの事は友人として行動するつもりだ。


その上でわたしはどちらも全力で行動するつもりだ。


願わくば、どちらも良い結果が得られれば良いと思っている。

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