第32話

わたしはおじさんの許可をもらい一人でもう一度宿屋の中を見ていく。おじさんたちは仕事の準備に入ってもらった。わたしを待つだけの時間なんて無意味だ。効率的、有効的に時間は使いたいと思う。


やはりスペース確保の問題になりそうだ。お湯を運ぶ事を考えると水場の近くが良い事は変わらない、安全の確保は最優先だ。安全と利便性を最優先で考えると見る目が変わってくる。


裏口の近くにあるリネン室を見る。干した後に入れやすいように裏口の傍にあるみたい。それに洗いやすいように洗濯場も近くだ。やはりこの辺りに場所を確保するのが良い気がする。後の片づけの問題もなくなりそうな気がする。その視点から見てもこの場所に手を入れることでスペース確保をしたいと思う。




リネン室の中から裏口までを見る。ここは完全にバックヤードだ。お客様が入る場所ではない。入った方もここで問題ないのかと心配になるだろう。そう思うとその心情的な部分もどうにかしたい。裏口からリネン室を振り返り他の空きスペースはないかと思案しているとリサが来てくれた。




「パル。どうしたの?のぞき込んで何してるの?」


「リサ。ごめんね。何か変な事してるわけじゃなにんだけど。場所がないか見てたの。どこかに空きスペースがないかと思ってね」


「どのくらい?」


「そうね。大きい方が嬉しいけど。小さくてもいいわ。とにかくスペースが欲しいの」


わたしの話を真面目に検討してくれているのか、リサは天井を見上げながら考えてくれていた。どこかを思い出したのか、小さい場所ならあると答え、わたしの手を引き出した。


「こっちよ」


「ここ?」


そう言いながら案内してくれたのは階段の下だった。会談の下に小さなドアがある。なるほど、ここなら確かにデッドスペースだ。考えもしなかった場所を案内されて自分の視野の狭さを反省する。ここをシャワー室代わりに使う事は出来ないが他の事になら使う事が出来そうだ。


リサがドアを開けて中を見せてくれた。ここは何も使われていない場所の様だ。中はがらんとしていて壁に小さな棚が作りつけてある。中は畳2枚分より少し狭いくらいのスペースだ。高さは私の身長よりは少し高い。一般的にここは掃除用品を入れたりする事が多い場所だがこちらでは使用していないらしい。わたしが中に入り見回しながら大きさや臭い壁の棚なんかを確認していると、リサが心配そうに聞いてくる。


「ダメだった?使えない?」


わたしの様子を伺うように効いてくる。これも反省。せっかく教えてくれたのに丸っきり放置してしまった。返事もせず中を見ていたらどうだったのか聞いてくるのは当たりまえだ、申し訳ない思いに囚われ謝る。


「返事もしなくてごめんね。ここが使えそうか確認していたの」


「どう?使えそう?大丈夫?」


「うん。使えそう。ここだけで使うんじゃなくて、併せて使えばうまくいくと思う」


不安そうなリサを安心させたくて勢いよく返事をしていた。わたしの返事にリサは少し安心したようだ。笑顔を浮かべるが寂しそうな悲しそうな微笑だ。学校で見せている朗らかな明るい表情ではなかった。家の事が心配なのに自分だけ何も教えてはもらえないのだ。自分だけ、と思うのと、どうなっているのか情報がないのでは心配なのだろう。始めの話ではここまで大きくなると思っていなかったのでリサが席を外すことを当たり前と思っていたけど、こうなるとそれは判断ミスだたのかと思う。


一人だけ何も分からない、これはたまらないと思う。しかもわたしは話の中に入っているのだ。同じ年のわたしは話を聞いて一緒に考えるのに、自分はどうしてダメなのかと考えるのは自然な流れだと思う。不安の一因はわたしにもあるのだ。

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