第31話

わたしはおじさんの案内で宿屋の中を確認させてもらっている。家族経営なだけあって、宿屋はそう大きくない。全体としては三階建て、一階が受付、水回り、リネン類を保管する場所、キッチン、中庭に出る通路。二階が客室、三階が家族の部屋だ。


作りとしては一般的だ。しかし小さいだけあって余分なスペースがない。これは難しい問題だ。一番簡単な方法とそてスペースを作ることを考えていたがそれだけの場所がなかった。全部を見て回り。その事を確認する。おじさんとしてはリネン室を使えば良いと思っていたようだ。だが、そこは完全にバックヤードだ。そこにお客様に使ってもらうのはどうだろうか?あまり見栄えがいいようには思えない。わたしは一階を歩きながら考える。衝立を使うのもいいと思うが女性では覗きの心配もあって使いにくいだろう。できれば個室を使いたい。だがお湯を運ぶ手間も省きたい。そこを両立するのは難しいのだろうか?


わたしはウンウンうなりながら考える。動線をなるべく短くしたいのだ。熱湯を運ぶ危険性を思えば二階という選択肢はなるべく外したい。それに宿屋を使うのは圧倒的に男性だ。リサもそうだがおばさんにだって危険性はあるのだ。なるべく部屋に持って行くという危険は減らしたい。そう思うとやはり一階が望ましい。わたしは堂々巡りの考えを何回も巡らせていた。そのわたしを見ていたおじさんは無理を言っていると思ったのか意見を取り下げてきた。


「パルちゃん。難しいのかい?ダメなら他の事を考えて方が良いかな?」


「いいえ。そうではありません。方法はあるはずです。おじさんたちが考えた方法をどうにかしたいと思っています」


「部屋にお湯を持っていけば簡単じゃないかな?」


確かにその考えは正しい。一番簡単だ。お湯と洗面器だけでよい。手間はかかるが問題は簡単に済む。しかし、私のわがままかもしれないが、リスクは下げたかった。おじさんの危機感のなさを心配しつつおばさんも危険性の対象であるはずだと追加しておく。


「おじさん。あまり心配していないみたいですけど、危ないのはリサだけではありませんよ。おばさんだって同様なはずです。あんなに綺麗なんですよ?サッパリしてください。ってお湯とタオルを持ってきてくれたら、男の人はクラクラしませんか?そんなつもりで持ってきてない、とわかっていても、変な気持ちになりません?長旅で疲れて宿屋に泊またらホッとして気が緩みません?みんなが皆そうなるとは言いませんけど、そんな人もいると思いますけど?男の人の目線としてどうですか?」


おじさんは言葉に詰まる。娘と同じ年の子供から男性側の危険性の認識について確認をされるのだ、さぞ気まずいものがあるだろう。気持ちとしては分からなくもいない。しかし、安全性には代えられないのだ。恥ずかしいぐらいは気持ちに蓋をしよう。わたしはポーカーフェイスを保ちつつ当然ように話しかけていく。ここでわたしまで恥ずかしがってしまっては話は進まない。仕事の話として続けていく。


「女性の方が力が弱いんです。避けられる危険は避けた方が良いと思います。それにそんな事があればおじさん達も宿屋も続けられませんし、仮に続けたとしても変な噂が立って、おかしな事を考える人がいっぱい来ると思いますよ。どちらにせよ良い事はありません。おじさんもそんな事嫌じゃありませんか?」


「当たり前だ。許さんぞ」


おじさんはわたしに向かって力を入れて断言していた。さっきは反応が薄かったのでどう思っているか分からなかったが、やはり危険性の認識が出来ていなかっただけで、理解が出来れば当然の反応が返ってきたので安心できる。


おじさんの理解ももらえたのでスペース確保にまい進しよう。

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