第28話

すり合わせのために、基本的な考え方を聞いてみる。


「その話を伺うとお風呂系の事を充実させるという事でよろしいですか?」


「そうだね。できたらその方が良いと思うけど、どうかな?」


おじさん達の希望がハッキリしているが、方法はあやふやだ。経営状態が良ければ、ただ始めるだけで問題ないが、今の状態では方法を考える必要がある。おじさんもそのことは理解しているのか不安があるのだろう。わたしもその不安を感じられるので、二つほど方法を提案してみる。極端かもしれないけど今の状態でできることは限られてくるのだ。


「おじさん。わたしとしては二つ方法があると思っています」


おじさんたちの目が真剣になってわたしを見る。これから何を言われるのか気になっているようだ。これからの自分たちの方向性が決まるから当然かもしれない。


「まず一つ目は借り入れをして簡単なシャワーブースを作ることです。この方法ならお客様に満足してもらえると思います」


「借り入れって、借金の事でしょう?借金は」


おばさんから否定的な意見が上がる。わたしも借金そのものは好きではない。しかし、健全な資金の方法としては悪くはないと思っている。借金の悪い例としてはギャンブルや生活資金、贅沢をするための借金が悪いものだ。返済方法の目途が立っていない。借入額が極端に多い。収入よりも返済額が多いなども問題になると思う。しかし、今回は設備投資だ。設備投資のための借り入れは問題にはならないと思う。今回の問題点を上げるとすれば、設備投資をして失敗した場合だろう。その場合は赤字経営のこの宿屋では返済が大変なことになると思う。その点を理解した上で検討すれば大きな問題はないと思う。事業拡大にもつながる話だ。検討の余地はあると思う。


「おばさん。確かに借り入れは借金になります。でも、今回は設備投資です。このシャワーブースの計画が上手くいけば、借り入れの返済は問題ないと思います。借り入れが問題なのではなく。返す当てもないのに借りることが問題なのです。そこは別に考えて欲しいと思います」


「パルちゃん。もう一つの方法は?二つあると言ってたよ?」


おじさんは別な方法も確認してから今後の方針を決める様だ。確かに情報が中途半端な状態で物事を判断するのは良くないと思う。


わたし自身も中途半端な話をしたことを申し訳なく思いながらもう一つの提案をする。今度の方法は簡単だ。今ある中で最善を尽くす形だ。


「もう一つの方法は、現状維持とほとんど変わりません。今できることで最善をする形になります。お客様がシャワーがない聞いてきたら、シャワーがない事を素直に認めたうえで、お湯とタオルを渡します。タオルは自分のものを使うか用意するかは確認。希望されたらサービスすれば問題ないと思います。ここで問題は槙代です。燃料代は馬鹿にならないと思います」


「そうよね。夏はともかく、寒くなるとお湯も沸くのに時間がかかるしね」


「そうですよね」


おばさんの意見には同意しかない。そこで打開策、というか少しでも負担を減らす方法も付け加える。


「燃料費を減らす方法として、こんなのはどうでしょうか?」


「どうするの?」


「まずはこちらからのサービスなので、基本的には燃料代はもらいません。代わりに時間は指定させてもらうのです。受付時間は決まってますよね?なので受け時間終了の1時間後にタオルも持っていくなたら無料。それ以外の時間になら燃料代をもらう。一度にまとめて沸かせばそこまで負担は大きくならないと思います。それ以外は個別に沸かすことになるので、そこは少し負担してもらう形ですね。お客様には正直に説明していいと思います。個別に対応するのは難しいので、時間を別にするなら、その分は協力してほしいことを」


「なるほど」


おじさんは大きく頷いていた。お湯を沸かす方向に気持ちは傾いているようだ。

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