第16話

「わたしの提案はありますが、先程も話をさせて頂いたようにお客様の反応に合わせる方が現実的だと思うので、お客様の要望がなかったか聞かせていただいて良いですか?」


「要望って、お父さんからも聞かれたたけど、特にないのよ?」


「全然ですか?何にもないことはないと思うんですけど?」


「俺も聞いたことはないな」


「・・・」


二人の反応に、いやおじさんも同様だったから、三人だろう。三人の反応に私は驚きを隠せない。




この宿屋、今まで潰れずに来たことの方がビックリだ。こんなにお客さんの事を気にしていないなんて。


わたしは無言になってしまう。比較的新しい宿屋でソコソコの値段だったから、選ばれていたのだろう。質問の仕方を変えてみよう。もしかしたら聞かれて事を要望と思っていない可能性が考えられる。わたしは希望を胸に質問の方法を変えることにした。




「わかりました。質問の方法を変えますね」


「あ、はい。」


おばさんとお兄さんは身体を小さくしていた。私の反応が冷たくなったのを感じたのかもしれない。


いけない相手はお客様、萎縮させては今後の関係性に影響がでるし、固くなると思っていることが言い出しにくくなる。それは避けなければならない。




「お客様から何か聞かれたことはありませんか?」


「聞かれたこと?」


二人はキョトンとしている。こんなことを聞かれるなんて思っていなかったのかもしれない。


反芻するように同じ事をわかりやすく言い直す。




「そうです。例えば、食事は付かないの?とか、入浴はどうなっているか?とか、洗濯のこと、宿屋の門限とか、そういった事です。言い換えれば、お客様からの質問ですね」




私の言葉にもう一度三人は顔を見合せる。話が出てこないので話が出てきやすいようにシュチエーションを追加する。


「受付の時や、お客様が出かけるときに聞かれることが多いと思うのですけど?」


「受付と出かけるとき?」


「受付って?」


お兄さんからの発言に口がポカンと開きそうになり、慌てて口を閉じる。


「宿屋に今日は泊まりますって話をしますよね?何日泊まるとか、値段の話とか」


「あ、来たときのこと?あれ、受付ていうんだね。パルちゃん、物知りだね」


「…」


お兄さん、大丈夫?なんかこの宿屋の先行きが不安だ。


いや、だからこそ私がいるのだ。気を取り直そう。




「とにかく。そのときに聞かれませんか?食事が出るのか?近くにお店があるのか?洗濯はできるか、シーツは変えてくれるのか?とか。どうですか?」


わたしの質問の意味を、理解してもらうため敢えて簡単に言ってみた。


その話を聞いたら思い当たったようだ。




「あるよ。洗濯できないかってよく聞かれる。後お風呂のこと、ここはついてるのか?って聞かれる」


「わたしもあるわ」


やっと、お兄さんとおばさんから返事が来た。わたしの質問の仕方が悪かったのだと理解ができる。


意味が分かればこんなにも簡単に話が進むのだから。


これは、わたしの反省案件だ。でも、それよりも話を先に進めよう。


なんか同じ事を、繰り返していて提案が出来ていない気がする。

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