第9話
おじさんとわたしはテーブルで向かい合わせになる。
今日、話を聞こうと思っていたけどここまで話が進むとは思っていなかったので、聞き取りがどこまでできるかは不明た。
たが、話している間に疑問は出てくるはず、そこを掘り下げることで問題点を洗い出したいと思っている。
まずは本当にお客さんが減っているかどうかから確認するべきだろう。
そこが問題の起点となるはずだ。
「おじさん。1番嫌な質問だけど、お客さん、本当に減ってるんですか?」
「そうだよね。そこの話はしていなかったね。本当だよ。まだ宿の経営に支障が出るほどではないけどね。確実に少なくなってる」
「やっぱり、新しい宿屋ができたから?」
「そうだと思う。ウチは古いと言っても他の宿屋ほど古くはなかった。まだ、新しい方だったんだ。そこが売りの一つだったんだ。そこまで新しくはないけど、他所よりは新しい、そんな感じだったんだよ」
「なるほど。一番の売りが潰された形ですね」
「耳が痛いけど、その通りだよ」
「少なくなったお客は全員その宿屋に流れたのは間違いなさそうですか?他に行ったりとかは?」
「どうだろう。いちいち聞かないし確認もしないし。もしかしたら他に行った可能性もあるかもしれないな」
おじさんの話ではお客さんの流れを把握してはいないようだ。流れた先でお客さんのニーズがわかるのに。
安さを求めるのか、綺麗さを求めるのか、そこで大きく今後が変わってくるのに。
「この宿屋は食事は提供するんですか?お風呂とかは?」
「食事は朝だけだよ。簡単なやつを頼まれれば用意する形だ」
「出すのは?」
「パンと牛乳かお茶。」
「それだけ?」
おじさんのあまりの返事につい冷たい声が出る。
なるほど、今までは大した事をしなくてもお客を捕まえられていたから、何が必要か考えていなかったようだ。
わたしが客なら何回もリピートはしないかもしれない。宿が新しいだけではいつまでも客は捕まえられないだはず。それは考えなくてもわかると思うんだけど。
「それだけ?って、パルちゃん。随分だね」
「それより、お風呂とかはどうなってるんですか?タオルとかの用意はしてるんですか?」
「いや、風呂はないよ」
「お湯の用意も?」
「それは料金をもらえば用意するよ」
「そうですか」
確かにお湯の用意は薪代がかかるから料金をもらわないと合わないか。そこは理解できる。
タオルの用意は全然ないのか、頼まれれば用意するのか。
ここは交易の始めか終着の場所だから長逗留はないはずだ。
洗濯の需要はないのかな?
そこはどうしているのだろう。
「頼まれればお湯を用意するなら、タオルとかは?洗濯も頼まれればするんですか?」
「洗濯はしないよ?そんな事をする宿屋なんて聞いたことがない。洗濯は大変だしね。家族だけでは賄えないよ。部屋の掃除もあるし」
「そうですか」
「リサちゃん何を考えてるんだい?」
「もちろん、とうしたらお客さんが捕まえられるか。リピートしてくれるか、です」
「リピート?」
「そうです。ここは交易の始めか終着の場所だから、何度も通る場所です。毎回来てもらえれば確実な収益に繋がります。そのお客さんをどれだけ捕まえられるか、そこが肝心なはずです」
「そ、そうだね」
おじさんはわたしの勢いに若干引いている。
熱くなりすぎただろうか?
「おじさんの求めるものはなんですか?」
「求めるもの?」
「そうです。客足が戻るだけで良いのか。戻るだけなら方法はいくらでもあります」
「そうなのかい?戻せるなら戻したいし。増やせるなら増やしたいよ」
「手段は問いませんか?」
「エッ?悪いことではないよね?」
「もちろんです。合法的な事しかしませんよ」
「なんか。その言い方も怖いね」
先ほどと同じようにおじさんは引いている。
この状況の認識の差が大きいのだろう。
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