第7話

「久しぶりだね、パルちゃん。いつもリサと仲良くしてくれてありがとう」


「こんにちは、おじさん。ごぶさたします」


「いつも礼儀正しいね。リサにも見習わせたいよ」


「そんな事はないですよ。リサもいつもちゃんとしてますよ」


「そうかい?」




おじさんとわたしは近所の井戸端会議みたいな会話をしていた。


そんな話しの中から、宿屋について会話の糸口を探していた。




どう話しはじめるか。下手な話し始めでは、リサに被害が行きかねない。




「おじさんも、お仕事どうですか?あんまり忙しいとリサとゆっくり話す時間もないでしょう?」


「まぁ、それなりだよ。リサも手伝ってくれるしね。パルちゃんもお家の仕事は手伝うだろう?」


「そうですね。たまにサボってますけど」




ダメだ。子供相手と思っているからか愚痴めいた事すら話してもらえない。


ここはズバッと言ってしまうかな?


リサに被害が行かないようにと思っていたが難しそうだ。


わたしは方向転換をあっさりと決めた。




「おじさん、近くに新しい宿屋ができたって聞いたけど、どんな宿屋なんですか?」


「ん?ああ、パルちゃんも知ってるんだね。まぁ、新しいからきれいだしね。ウチとはいろいろ違うみたいだ」


「どんなところがですか?」


「古い所よりは新しい方がいいだろう?皆そう思うのは同じだよ」


「古いところにも良いところはたくさんあると思いますけど。工夫次第じゃないですか?」


「どうやって?」


おじさんはわたしの話しに興味を持ってくれたようだ。


わたしはそこに乗っかる事にした。




「おじさん。わたしにはいくつかの考えがあります。それにはもちろんおじさんからの情報も必要です。正しい情報や環境がわからないとうまくいきませんから。ただ、わたしの狙いが上手く行ったら、わたしにご褒美をほもらえませんか?気持ちで良いので報酬が欲しいです。もちろん、報酬はおじさんにお任せします。どうでしょうか?」


「パルちゃんの考えが上手く行ったらでいいのかい?」


「はい。わたしには実績がないので信じてください。と言っても信じられないでしょうから、そこは結果が出てからの判断で良いです」


「面白そうだね。でもね」


おじさんは信じきれないようだ。子供のわたしが言うことが、どうだろうと思っているのだろう。無理もない話で、わたしが同じ立場なら半信半疑にでこの話には乗らない。


ただ気持ちはわかるので説得もしやすい。




「おじさん。ダメだとしても、おじさんに損はないですよ。自分で考えて上手くいかないのか、人の意見でうまくいかないのかの違いじゃないですか?それに、わたしが失敗したらわたしの責任です。おじさんの責任ではありません。どうですか?」


「それはそうだね」


おじさんは揺れているようだ。少し面白がっている様子もある。子供の友達がこんなことを言い出すとは思ってなかったはずだ


でも一番大きいのは、わたしのおじさんの責任ではない、が大きい様子だ。


ここはもう一押し。




「おじさん。始めから失敗するつもりでやってみるのも良いんじゃないですか?成功したらラッキー位のつもりで。どうでしょう?」


「そうだね。始めから上手くいかないつもりなら、それはそれでいいかものね」


「そうですよ。やれることはやってみましょうよ」


わたしの言葉におじさんは頷いていた。


なんとか説得することが出来た様子だ。


おまけにリサから話を聞いたとは思っていない様子。リサとの約束も守れたみたいだ。


そこは安心できた。




わたしは一息つくと改めて口約束でがあるが契約内容を確認する。




「じゃあ、おじさん。確認ですが。わたしはおじさんから情報をもらう。その内容からこの宿の改善点を探し出して改善させる。おじさんが改善できたと思ったら、わたしはおじさんが良いと思った報酬をもらうことができる。合ってますか?」


「ああ。それで良いよ」


「ありがとうございます。では」


「リサちゃん。そこまで話をちゃんとするなら契約書を作ろうか?」


「?ありがたいですけど。わたしではそこまでの条件は満たせないと思いますけど」


「関係ないよ。口約束では後から揉めるといけないからね。契約書の大事さを実感するのは大事だよ。特にパルちゃんのウチは商店だからね」


「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」




わたしはおじさんの好意に甘えることにして契約書を作ってもらった。


正式なものではないけど、子供のわたしを相手に簡単なものでも契約書を作ってもらうのはありがたいことで、嬉しかった。簡易でも契約相手として認めてもらえたのは予想外の事でこちらの世界では始めてだからだ。


それにわたしの勉強も兼ねてくれたようだ。わたしの家業も関係しているのだろう。おじさんの配慮には感謝しかない。




おじさんとわたしは内容を確認して契約書にサインを入れた。もちろん同じものは2枚ある。


サインを済ませるとわたしとおじさんは握手をした。


「では、これからよろしくお願いいたします。できる限りの事をさせていただきます」


「こちらこそ。お願いするよ。パルちゃんの考えを楽しみにしているよ」


「はい。全力をつくします」


二人で満足げにしていると、リサだけは呆気に取られてわたしとおじさんを見ていた。

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