第34話 まさか、いかさま
レティシアは、ストーリッシュとローズの後ろ姿を画面越しに眺めていた。
ふたりの前を歩く男たちが、ちょろちょろと出てくるダンジョンクリーチャーを倒している。
1階層なんてチョロヘビ、ダークマウスくらいしか出ないというのにだ。
(階層主エリアまで体力温存の護衛ということかしら……)
階層主エリアは、冒険者ギルドでパーティ登録をした者のみ、いっしょに入れる。
ストーリッシュとローズは元々パーティ登録しているのだろう。
(他の者たちは、まさか……ね……?)
階層主エリアの入り口に来た。
もちろん順番待ちなどない。
レティシアはカメラをホーム画面に戻した。
するとすぐに1という数字が点滅し始めたので、その数字に触れてルームカメラの画面に切り替える。
スピーカーの印に触れようとしたが、指が止まった。
画面には、ストーリッシュとローズの他に男が三人映っていた。ベンジャミンもいる。
ふたりをうしろに置き、守るようにして男三人が構えていたが、対するはホーンラビット一匹。ダンジョン・ワールズエンド最弱の階層主。
あっという間に切り伏せられて、五人は画面から出ていった。
(そう……。あなたたち、そうくるのね…………)
レティシアがまさかと思っていたことが、本当になった。
魔法学園の卒業試験で
しかも、やけに手馴れているように見える。授業の一環でダンジョンに潜ることもあるので、もしかしたらそういう時も常習的に行われていたのかもしれない。
そして――――もしかしたら、マルティーヌもそうだったのではと、疑惑がわいた。
この国では貴族も王家も関係なく、魔物討伐の要請がくる。大変な魔物が出た時は、むしろ魔力が多い高位貴族こそ率先して遠征に行かなければならない。
だが、マルティーヌを遠征で見たという話は聞いたことがなかった。ストーリッシュと同じく、他の者に行かせていたのだろう。そんなことをしているのだから、戦い慣れていないはずである。
なのに、レティシアは卒業試験で彼女を追い抜くことがなかった。
そういえば、あの時、マルティーヌが見当たらないなと不思議に思ったのだ。
その年の卒業試験の順番は、最初にベルナール、二番目にマルティーヌ、三番目がレティシアだった。
ダンジョン・ワールズエンドを熟知しているレティシアが、5階層までの間にマルティーヌを追い抜く可能性は高い。けれども彼女はいなかった。
どこかに隠れてやり過ごしたのだろう。それは仲間がいればやりやすい。
(王家はいったいどうなっているの……こんな不正を堂々と行うなんて…………)
今、レティシアはこの情報晶でいろいろ見えているから堂々と不正しているのが見えているが、実際にそれを外の者が知る術はない。
冒険者ギルドで知ることができるのは、現在ダンジョンに入っている者の名前のみだ。その名前からギルドの登録情報をたどれば、年齢や実績、パーティ情報までわかるが、ダンジョンのどこに誰といるというのまではわからない。
今、不正に手を貸している男たちは、出る時にストーリッシュやローズと別々に出ればいい。「ダンジョン閉鎖に気付かなくて」とかなんとかうそぶけばいいのだ。
どうせどの階層で何をしていたのかまでは、知るすべがないのだから。
罰金や冒険者ギルド除籍などが待っているが、それを補うほどのお金が王家から出るのだろう。
レティシアは2階層のダンジョン平面図の画面に切り替えた。
第二王子の一行は最短ルートから外れながら移動して、2階層にいた他の者たちと合流した。平面図にはパラパラと人員が配置されているのも見えている。他の学生たちの動向を見るための者なのだろうか。
ストーリッシュの追跡カメラに画面を切り替えると、ちょうどふたりが休憩しているところだった。
優雅にティータイムのようだ。
ローズの近くには侍女役なのか、女性冒険者の姿もあった。
思ってもみなかったことがいろいろと目の前に現れ、レティシアの頭はすごい勢いで回転している。
例えば、2階層の階層主は、ホーンラビットが複数になり、ランダムでキングホーンラビットやジャイアントダークマウスなどが混ざることがある。
1階層よりは強いが、たかがしれている。それを歌で強くしたところで、熟練冒険者の前ではあっという間にやられてしまうだろう。
3階層はトゲモグラ、4階層でグルグルヘビ、5階層でマダラタヌキがメインとなり、それぞれランダムでいろいろな組み合わせで待ち構えている――――にしても、やはり低階層のダンジョンクリーチャーは弱い。
「あの護衛たちは邪魔だわ……」
パーティ登録は最大で五人。登録するのは冒険者ギルドになる。もしここで護衛の男たちが倒れたら、ストーリッシュとローズふたりのパーティになり、その先はふたりきりで階層主エリアを突破しなければならない。
レティシアが思わずもらした言葉に、膝の上のイタチーがぴょんと飛び跳ねた。
『ボクがやっつけてきてあげる!』
『ずるいゾ! オレだってマスターの役に立ちたいノニ!』
サランダがジタジタと暴れるのを、ケロロンがたしなめている。
『火、わがままはだめケロー』
『そうだよ! だってあそこはボクのお部屋だよ! 火がいたらおかしいよ!』
『ウー……』
召喚獣同士の揉めごとは、案外あっという間に解決した。
洞窟エリアは土属性の魔イタチのナワバリなのだろう。
ナワバリに関しては召喚獣の間で強く口出しできないのかもしれない。
「あなたたち、あの画面の中に行くことができるの?」
『できるよ! マスターが歌ってくれればいいの!』
「そ、それはだめよ……そろそろ次の学生が来てもおかしくないのだから、巻き込んでしまうわ」
『じゃぁ、ボクがお部屋に行って待ってる? お部屋だけに聞こえるならいい?』
お部屋とは階層主エリアのこと。そこだけで聞こえて、他に影響がないなら歌ってもいいかもしれない。
レティシアは、ふむと考え込んだ。
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