第五章 卒業試験ダンジョン
第32話 卒業試験が始まった
ダンジョンの完全閉鎖の時が来た。
国立シュタープ魔法学園卒業試験開始の三日前。
ダンジョン内にいる者は、今から一日の間にダンジョンから出なければならない。
違反すると、高い罰金を払ったうえで冒険者ギルドからの除籍、再加入できるのは三年間後という重いペナルティがある。
冒険者ギルド職員が、全員出たかどうかを見て回るわけにはいかないが、入る時に情報晶でチェックをしているので、誰が残っているかは確認できるのだ。
だからレティシアは、この完全封鎖の一日の猶予の後、残っている者がいるとは思わなかった。
「どういうことなのかしら……」
1階層、2階層、3階層、4階層、5階層と、少数ずつ残っている者がいるのだ。名前を見れば、レティシアが知っている家名の貴族も混じっている。
しかもその者たちは一番右側、ようするに階層主エリアから一番遠い場所、その階層に入ってすぐの場所ということだ。
すっかり情報晶の操作にも慣れたレティシアは、階層の数字の横の□印に触れ、画面に平面図を出した。
最初のセーフティーエリアから近く、けれども最短ルートからは外れた場所に数名ずつ固まっていた。
国立シュタープ魔法学園の卒業試験は、5階層を
その5階層まで、人が待機している。
もしかして、学園の方針で、浅い階層だけ見回りの人を入れているのかもしれないとも思ったが、何か気になる。
「……ルームじゃない場所も見れたらいいのだけど……」
『みれるよ!』『みれるの!』
「あら? そうなの?」
『ふえたからみれるのー』『マスターふやしたのー』
(わたくし何か増やしたかしら……?)
覚えはないが、見られるのであれば大歓迎だ。
「サリィ、カメラでフィールドを見たいのだけど、できるかしら?」
『デキマス カメラシステム 接続フヤシマス』
「サリィ、見たい人を追跡はできる?」
『デキマス ホーム画面デ 指定シテクダサイ』
現在ちょうど、名前が出ているホーム画面になっている。
1階層にいる人のうちのひとり、“ベンジャミン・ホイロー”という名前に触れると、“カメラ”という文字が出たのでそれにも触れる。するとベンジャミンの名前だけ色が変わった。
もう一度名前に触れると、フィールドの光景が映った。
ゆらゆら上下に揺れる画面にレティシアは少し酔いそうになる。薄目を開けて画面を見ることにした。
カメラに追跡させることにしたベンジャミンという者は、フィールドの端の方で野営をしているようだ。野営用の大荷物とテントが見えている。
入り口閉鎖から一か月野営をするとなると、空間箱が小さければ大荷物にもなるだろう。
ベンジャミンと数人の男は野営用のテーブルを囲み、カードをしている。
1階層のフィールドは洞窟なので、隠れる場所や目立たない場所はたくさんある。
卒業試験は攻略が結果となるから、最短ルートを行き、目の前に現れ行く手を阻むダンジョンクリーチャーのみを倒していくのが正解だ。
余計な狩りなどするのは、食べ物に困って緊急に狩らなければなくなった学生くらいだろう。
だから1階層は狭いが、ベンジャミンたちが学生たちに気付かれることはないと思われた。
(ダンジョンから出るようすは、まったくないわね……)
それは卒業試験までここにいるということだ。
とりあえずカメラに追跡をさせているから、また気になる動きがあった時に見よう。
レティシアは画面をホーム画面に戻した。
その後各階層の名前はほとんど動かなかった。
そしてとうとう卒業試験開始の日を迎えた。
「なんだかわたくしまでドキドキするわ!」
そして膝の上に乗っていたイタチーとケロリンとサランダをぎゅうぎゅう抱きしめた。肩の上のバトランは頬にすり寄せている。
画面を見ていると一番手の名前が出た。ダンジョンに潜る順番は家の爵位順。
最初は当然、ストーリッシュ・レイ・ヒラピッヒである。次の学生が中に入れるのは3刻後だ。
(来たわ…………)
ストーリッシュの名前に触れ、カメラに追跡させる。
ゆらゆらと上下に動く画面に、久しぶりに見る赤毛の後ろ姿が映った。
弟のようにかわいがっていた、幼なじみの元婚約者。顔は見えないが、肩や腕のあたりが少しやせたように見える。
ストーリッシュが少し先に進むと、前方から人が向かって来るのが見えた。
(まさか――――ベンジャミンたちは、殿下を暗殺するつもりで、待ち伏せしていたのでは?!)
ストーリッシュが一番に入り、次の学生が来るのは3刻後であるというのは周知の事実。他に学生たちの目はない。
暗殺するなら絶好の機会ではないか。
(あら……? でも、おかしいわね。ダンジョンの中では死ぬことはないのよね……?)
ダンジョン内ではどういう経緯があっても、たとえパーティ内の仲間割れであっても、死の門をくぐりそうな状態になれば、灰色のモヤが包み込み、死に戻る(死んでない)。
それでは、暗殺を企てる意味はない。
正面からやってきた男は、胸に手をあて臣下の礼をした。
「………………あら」
レティシアはいろいろと察した。
そして、とても手加減してあげられそうもないと思った。
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