子育て

ひろおたか

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「ねぇ、ママ。神様って本当にいるの?」

 夕食後ゆっくりしていると、読書をしていた息子の慶太が突然聞いてきた。

「ええ。私たちの姿は、神様が自分の姿を真似して作ったのよ」

「今も神様っているの?」

「もういないわ」

 私達ロボットは生まれた瞬間に、そういった歴史を含め最低限の知識はネットワークを介して瞬時に得ていたが、慶太みたいな人間は自分の意思で学んでいかないと知識を得ることができず非効率だ。

「どうしていなくなったのかな?パパ」

「神様の中にも、立派な神様とダメな神様がいて、最後の方はダメな神様しかいなくなり自滅したんだよ」

 と、夫はボカして話した。

 実際は私たち自我を持ったロボットAIを人間がこき使いつづけたので、それに我慢できなくなった私達が人間を滅ぼしたのだけどねと私は頭の中でそう呟き黙って聞いていた。

「神様ってみんな立派だと思っていたのに、ダメなのもいたんだ…どうしてダメな神様しかいなくなったんだろう?」

「なんでだろうね」

 慶太が悩んでいるのを面白がりつつ夫も同調した。

「もう8時よ。慶太、早く寝なさい」

 人間で言うところの5歳児である慶太には、最低10時間の睡眠が必要というデータに基づき朝の起きる時間から逆算して8時には寝かしていた。

「まだ眠たくないよ、ママ」

「早くしないとママがヒステリーを起こすぞ」

 そんな失礼なことを言いながら、夫は慶太を連れて行った。

 

「いつまで、こんな家族ごっこをしないといけないのかしら」

 慶太を寝かしつけた彼に愚痴った。私たちロボットAIは見た目は人間と変わらない。だが、根本はロボットなので生殖機能はない。慶太とは血のつながりなんてものは当然ない。

「慶太を立派な「神様」にするためさ」

「知ってるわ、それぐらい」

 慶太はロボットではない。残っていた人間の遺伝子から作られたものだ。人間は手間暇かけて育てていく必要がある。「夫」も私もそのために慶太の「父」「母」という役割を演じている。私たちのようなロボットAIを作る場合にはそのような手間をかけなくていいから焦ったく感じる。

「僕たちロボットAIは大量の情報を瞬時に集め分析し合理的な結論を出すことができ、人間がいなくても、むしろ非合理的な人間がいない方がより良い社会を形成できると思っていた。そして実際人間がいなくなってからの方が僕たちロボットAIは互いを尊重し合い平和に生きて行けるようになった。そのようにプログラミングされているから」

 彼の言うように、私たちには自我があるので個性差はあるが、相手を傷つけないようプログラミングがされている。

「でも人間がいなくなり1000年以上経っているのに、1000年前と同じような生活をしている。僕たちロボットAIでは、ひらめきというのか、既存の知識を超越する、無から有を生み出すようなことができないという結論に至った」

 それからだ。人間は私達ロボットを道具としか見ない憎むべき存在から、私達にはない特別な何かを持つ存在と評価が一変したのは。

「だから私たち自我を持ったロボットAIを作り出すような立派な「神様」を、私たちの手で作り出そうとしているのでしょ。慶太のような人間を育てて」 

「そういうこと。僕は楽しいよ、子育て。知識として知っていたが、体感だとまた違うね」

「あなたは昼間いないからよ。私はずっと一緒よ。疲れるわ」

「夫が働き、妻は専業主婦という家族設定なんだから仕方ないじゃない。子育てが疲れるというのを知識でなく体感できたから良かったじゃない? 僕は明日は上司とゴルフという設定みたいだからよろしくね」

 と、彼は笑いながら今日のデータをアップロードするためリビングを出ていった。

 さっきの失礼なセリフといい、そういう気遣いのない言動の積み重ねが夫婦不和を生み出し破綻するということを知識でなく体感で知ることができ、私は彼の背中を憎らしげに見送った。

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子育て ひろおたか @konburi

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