第44話 優秀なんだよなあ
「こりゃあ本格的に肉捌く係をコボに任せるか……」
「でも、俺肉の用意もあるんですよねぇ……」
「確かに。オークの生産もコボ主導でいきたいからなぁ。なんでお前1匹しかいないんだよぉ」
「いやそういってもらえるのは嬉しいんですけど、流石にそれは無茶ですよ」
「まぁ、そこはコボルトの育成を待つしかないんじゃないですか? 最低限肉を捌くスキルでも魔剣があればある程度の速度で作業を行えるはずです。最熟練度の高い個体を作るより遙かに簡単なはずですし、時間もそこまでかからなくなったと考えると……コラボ企画は早い段階で実現出来そうですね」
俺の小ボケに半笑いで答えるコボ。
少し緩んだ空気の中、遠藤は冷静に今後の計画に思考を巡らせる。
嫌な奴だけど仕事に関しては優秀なんだな。
「それにもしあのダンジョンで同じ魔剣を手に入れられるようならダンジョンの踏破を繰り返して、数を増やしてって事も出来ます。宮下さんは今後コボルトのダンジョンとオークのダンジョンを複数回踏破してもらいたいですね」
「コボルトのダンジョンを踏破するのは考えてたけど、オークもか……。なんか本格的に作業、コツコツゲーになって来たな」
「大きな利益の為にはこれくらいの事が必要なんですよ。ビジネスは簡単じゃないですからね」
「……無害になってこっち側についてくれたら、遠藤が凄い頼もしく見えてきた」
「不本意ですけどね。はぁ、今回の情報でどれだけ焼肉森本に吹っ掛けたり、他の企業を揺すぶってやる事が出来たか……」
遠藤は自分のペースが掴めないのかため息を溢すと、右足のつま先で地面をトントンと叩く。
人の貧乏揺すりを見て、こんなににやけれたのは初めてかも。……俺も俺で性格終わってるかもしれん。
「そんじゃあ次にオークの発生装置を設置するか」
「あ、でも部屋が……」
「コボ、ダンジョンの踏破をしたって言っただろ。部屋の数も設備も増やせるようになった。それに、階段も全部で3つまでいける。魔石値も溜まってるし……一気に拡張するか」
俺は水晶を取り出すと、早速コボルトの部屋の横に新しい部屋を増やし、階段を一ノ瀬さんのいるパソコン室に1つ増やした。
部屋はあと2つ増やせるけど、魔石値が足りないから後回しにするとして……
「あの、前から相談していたあれなんですけど……」
「分かってる。今回のでいいのが出たからそれも作ってやるよ」
コボはぺこぺことしながら、催促してくる。
少し前に聞いた話なんだが、コボルト達モンスターは2日おきに全身の汚れを勝手に洗われるらしい。
ただ、肉を捌いたりコボルトだらけの部屋にいる身としてはもっと頻繁に汚れを落として清潔な身体を維持したいらしい。
前にキッチンの水で全身を洗おうとしてるところを見るっていう出会いたくないラッキースケベに遭遇してしまった事もあって、俺もこの問題は早々に排除しておきたいと思っていたのだ。
コボルトのしかも♂がきゃーって悲鳴を上げたのは見ててなかなかきつかったもんだよ。
「シャワー室を設置と……」
「シャワー室? そんなものまで設置出来るのか、出来るんですか? しかもそんなに簡単に」
「ああ。遠藤は初めて見たから驚いただろうけど」
「なるほど、これは……まだまだ利益を生み出す方法はありそうですね。ふふ……」
「え、めっちゃ不気味なんだけど。命令、その笑い止めて可愛く笑って」
「ふふ――。シュロロロロロ」
「その笑い方は可愛くないだろ」
◇
「よっしこれでオークが出てくるはずだぞ」
「ゴブリンと同じ感じで最初の1匹は拘束したいところっすね」
俺達は場所を移動して、一先ずオークの発生装置を設置した。
今までの経験からしてそんなすぐには動かないと思うけど。
「これでほっとくとオークが出てくるんですね。それで罠はどこに?」
遠藤は発生装置を眺めるながらそう呟いた。
罠。そんなものはないけど。
「罠なんてものはないっすねえ。ゴブリンの時も俺と他のコボルト達が無理矢理力づくで――」
「それじゃあ、最悪の場合があるでしょ……。システム化するならリスクは極限まで減らさないと」
やれやれと首を振ると遠藤は発生装置の周りに自分の涎をまき散らし始めた。
ひどい絵面ではあるけど、確かにこれなら生まれたばかりのオークの動きを簡単に拘束出来る。
やはりこいつ有能。
「今俺がやった事が出来る奴を今日中に1匹捕まえて育成。宮下さんはそのオークと今捕えているゴブリンをテイムして従わせてください。オークとの対話は俺が出来るようになっているので、今日は1日発生装置に張り付いて、そこまでの育成もしてしまおうと思います」
「オークと対話……そんな事まで出来るようになったのか。もうちゃんとしたモンスターじゃん」
「……そっちのコボルトはちゃんとした人間みたいですけどね。ふぅ、今日はしんどいですけど、それさえ済ませれば俺がここに来る理由は今後肉の生産状況の確認と店長や一ノ瀬さんとの話し合いだけになるは――」
「――ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
遠藤が言い切る前に装置が起動して1匹目のオークが現れた。
しかし、罠にはまって身動き出来ないオークはなす術がなくその場に伏す。
次々にオークは生まれるけど、どれも同じ。何か見てて爽快だわ。
「よし。取り敢えずこいつをテイムしてください多分触れるだけでテイム出来るはずです」
遠藤の指示通り俺はオークを1体テイムする。
俺も今日はもうダンジョンに行きたいと思っていたから、こんなに早く装置が起動出したのはラッキーだ――。
「だから、こう涎を垂らすとそれが接着剤みたいになってだな」
「ぶも?」
「ん? どうした遠藤?」
「あの、このオークに宮下さんからスキルを使って罠を張れって命令してみてください」
「……別にいいけど」
俺はオークに命令を告げた。
しかし、オークは不思議そうな顔をして鳴くばかり。
もしかしてこいつ、というかオークってすごい馬鹿?
「駄目かぁ。いいか、もう1度言うからやってみろこう口の中を……」
「ぶも?」
「さっきは教えた通り出来ただろ? もしかしてもう忘れたっていうのか?」
「ぶも?」
「遠藤、確認だけじゃなくてこいつに仕事を覚えさせる為にも休日どっちか、最悪退勤後もここに通いそうだな。ふふふ」
「あーもう、なんであれもこれも俺の思う通りにならないんだよぉ」
最下層に居た奴は頭良さそうだったんだけどなあ。
まぁ、遠藤にはほどほどに苦労してもらうのがちょうどいいや。
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