第27話 全速〇進daaaaaaaaa!!!

「……お客さんもしかして有名な人? 芸能人? そのカメラってもう動いてるよね?」

「……しがない探索者です」

「ああ! 私も最近探索者さんで動画投稿してる人を見ますよ! ドラゴンとかトロルとかを倒してる動画なんかを見ると、昔遊んだRPGを思い出してねぇ」

「へ、へぇ……」

「よかったらチャンネルの名前教えてくださいよ。私チャンネル登録しますから」

「あの、焼肉森本――」

「焼肉森本っ!? あのコボルトの肉のやつ見ましたよぉっ! 今度食べに行こうっていつも思ってるんだけど、今凄く混んでて入るまで時間かかるからなかなかねぇ。この時間、曜日は狙い目とか、あったりしませんかねえ?」

「今はどの時間もなかなか厳しいですね。でも近々席が増える予定なので――」

「本当ですか! そしたらその日に家内と食べに行きますよ。あっ! そうだこの動画の公開っていつになるんですかね? もしかしてプレミアム公開? 自分の声が載る動画なんてちょっとテンションが上がりますねえ」


 タクシーの運ちゃんめっちゃ話しかけてくるんだけどぉっ!


 割高になってもいいから、電車で注目浴びないようにタクシーにしたっていうのに……。

 動画を見てくれてるみたいだから邪険にするわけにもいかないけど、いやぁ辛っ。


 そもそもタクシー乗るのは非日常でルーティーンでも何でもないからここカットだよ。


「――はいじゃあこちらがお釣りになります。楽しみにしてるから頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 ダンジョンモールの入り口付近まで運んでもらうと俺は、足早にダンジョンへ。


 カメラを付けてる所為で、人の目がいつもより俺に向いててなんかもう気まずい。


 景さんには悪いけど今後は、この羞恥プレイを断らせてもら――


「あれぇ? もしかしてこれから探索の様子を撮影ですか?」


 カメラ効果凄いな。

 ダンジョンモールの入り口を抜けた瞬間にまーた話しかけられたんだけど。


「え、ええ。そのあなた達は俺に何か御用ですか?」

「いやいやいや、ちょっと忠告をと思いましてね。……もしダンジョン【NO1】、【NO2】の撮影予定なら他のダンジョンの方がいいって」

「それは何故ですか?」

「そこは俺達がちょっと前にかなり下の階層まで撮影済みで……二番煎じの動画なんて伸びるわけないですから」

「……そういうものなんですか?」

「ええ。俺達の動画は平均十数万。それもそのはずですよね、俺や仲間はメディア受けのいい顔と実力を兼ねていて……おっさん探索者の動画なんかとは比べ物にならないので。そのおっさんが今話題の『神』でも勝てっこないですよ」


 3人組のリーダー格らしい金髪の男性が言い放つと、後ろの2人はくすくすと笑う。


 どこに雇われてる人達かは知らないけど、探索者の嫌なところをかき集めましたって態度だな。


 注目を浴びるぽっとでの奴にこうして嫌がらせして、競合他社を潰そうって魂胆なんだろう。


 お前らが新人潰しのト●パに見えるのは俺だけかな?


「忠告ありがとうございます。でも俺はまだ10レベルなんで【NO1】で撮影させてもらいます。あんまりレベルの高いダンジョンは難しいので」

「レベル10? あっはっはっはっはっはっはっはっはっ!! いやぁすみません、『神』なんて言われてるみたいなんでもっとレベルが高いと思っていて。そうですかそうですか、なら【NO1】が丁度いいですね。怪我しないように気を付けてください、それじゃあ……。ぷっ、あははははは――」


 あー、なるほどねえそっかそっか、俺が大したことないから構うだけ無駄って思ったのか……。



 ――おっさん探索者なめんじゃねえぞごらぁっ!!



 お前らなんかどーせ俺のステータスの何分の1程度しかないくせによう! 

 実力もなければモラルもない人間性レベル1の奴らに俺が血の滲むような思いで、10年かけて到ったこのレベル10を馬鹿にするんじゃねえっ!!


 あーもう堪忍袋の緒が完全に切れました。


 今の映像も獲れてるので絶対アップロードします。


 そんでもって、俺が【NO1】をたった1人でしかも最速で踏破してその鼻っ柱を折ってやるよ。


「ふふふふふふ……逆に燃えてきたじゃねえの。行くぞ【NO1】」


 俺はもう周りの目なんて気にしなくなっていた。


 だってもう、モンスターにありったけの怒りをぶつけたくてぶつけたくて、殺したいって気持ちが募っちまってそれどころじゃなくなっちまってるからな!


 歩いてなんていられねえっ!


 おっさんの全力全快……



「全速前進daaaaaaaaaっ!!」



「今のって焼肉森本の『神』だよな?」

「俺今の動画撮ったぜ。面白かったから投稿しちゃお」

「それ盗撮になるんじゃねえの?」

「一応焼肉森本の公式に動画投稿していいかDM送ってみるわ。……OKだってさ! 『神が青い神を使役するキャラのセリフって面白すぎます。【ダンジョン内ではゴッドハ●ドクラッシャー期待します】ってコメントと一緒に投稿してください』 だってさ」

「公式が病気ってこういうのを言うんだな」

「ノリがいいとも言えるけどな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る