第10話 この出入口見たことあるやつだ

「ふう、大量大量っ! ……コボルト【RR】の発生タイミグと装置の発動間隔が分かんないから、お前は万が一装置から沸いた大量の通常のコボルトが生まれたてのコボルト【RR】を数の暴力と不意打ちで殺すっていう事故を防止する役、コボルト喰い殺し調整長に就任だ」

「が、あ、あ……」


 あまりにも一方的な狩りが行われる横でずっと怯えながら蹲っていた臆病場コボルト【RR】の肩をぽんと叩きながら、俺は微笑みかけた。


 コボルト【RR】からしたら俺はとんでもないサイコパス野郎に見えてるんだろうな。

 そりゃ、反撃も出来ないよね。


「次は階段だけど、別に位置は変えなくてもいいか。……っし、1回帰るか。そんじゃまたな! サボらずにちゃんと仕事するんだぞ」


 俺は階段の設定で場所だけダンジョン入り口裏に設定し直すと、蹲ったコボルト【RR】に再び声を掛けて、階段を登り始めた。

 登りながら振り返り、手を振ってやるとコボルト【RR】は手を振り返してくれる。


 うん、今のはちょっと可愛い。ポイント高い。


 従順な個体はペット、焼肉にするコボルトの肉を自動で入手する仕事を任せるのもいいかもしれない。


 こういうシステムを作るのってなんかゲーム、マインクラ●トみたいだな。

 俺そこまでやり込んでないけど。


「おっ。出口かな」


 階段の最上段辺りまで来ると、隙間から光が漏れ出す天井が見えた。


 光の漏れる箇所は他の場所とは明らかに材質が違う。


 上から何か被さっているっていう感じなのかな。


 触ってみるとそれはプラスチックの様につるっとしていて、軽さを感じる。


「んー眩しい」


 思い切って押してみると、それはカパッと外れる様に簡単に開いた。


 太陽とは違う、人口の光が薄暗い階段を上ってきた俺の目を刺激して……ん? 人口の光?


「これって……うっわぁ、これ便器じゃん」


 そこから顔、手、胴体を抜けさせて自分の通ってきた場所を見た。


 人が通れるようになのか、形が不自然だけどこれは洋式の便器。


 水はないし、汚れも見えないけど……。


「気分は良くないなぁ。えっと、水晶で……。げっ、外からは操作出来ないのかぁ。でもあそこに帰るのにまたここ通らないと……嫌だなあ」


 便器を使って移動するのなんてホグ●―ツに向かうシーンでしか見た事ないぞ。


 それにここ誰か使ったりしないのか?


「見たとこ仮設トイレっぽいけど――。ん? 張り紙?」


 仮設トイレの出入り扉に書かれた説明文。


『ダンジョン入り口裏、この扉は水晶を手に入れた対象のみが開閉可能』

「じゃあ別に直で階段でいいじゃんっ!! いちいち便器通るのは不快感ヤバいよっ! ……まぁいいや、【NO2】の入り口の様子を見に行こ」



 「ダンジョン入り口裏からここまで意外に離れてるのな」


 あの仮設トイレ、もといダンジョン入り口裏から徒歩10分。

 俺はダンジョンモールの入り口に戻ってきていた。


 ダンジョンモールはいくつかの企業が出資してくれているお蔭で、雨避けと一般人が入らないようにする意味で、高めの壁に囲まれ、屋根も設置されている。

 あまり広くはないが、露店も出ていて雰囲気は悪くない。


 造りは小さめのライブ会場に近い。


 そのダンジョンモール沿いに外を歩くと、人気のないところに行き着いてあの仮説トイレが見つかるといった具合だ。


 正直戻るのめんどい。


「あれ? いつの間にお帰りに? てっきりまだダンジョンの中かと」

「あ、ええっと、丁度入れ違いだったんですよ、きっと」


 ダンジョンモールの入り口を抜けると、さっきまで【NO2】の入り口前で待ち合わせをしていた探索者の人、それにその仲間の人達と目が合った。


「えっと、探索はもういいんですか?」

「はい。あのダンジョンにさっきまで潜っていたので知っているかもしれませんが、あそこには脅威どころかモンスターの1匹も見当たらなくて。もしかしてですけど、あなたが全部狩りきったとか……」

「いえ、そんなの出来るわけないですよ! レベル10になったばかりなんで」

「……そう、ですよね」

「でもモンスターがいないという事は安全っていう事ですよね? 良かった良か――」

「いえ、むしろモンスターが湧いていないというのが不自然過ぎて。しかも、ところどころにコボルトの血痕や肉片があったものですから」

「あ、ああ、それならあそこのコボルト達はたまに縄張り争いみたいな事をするので」

「そうなんですか……。まぁ隅々まで確認した結果危険な存在は見当たらなかったので、そのまま報告はしますが」

「これで今まで通り探索者が安心して探索出来るようになればいいですね」

「……。はい」

「それでは、お疲れさまでした」


 俺はさっと振り返るとそそくさとその場を去った。


 あり得ないとは思うけど下手にあの場所の事を悟られて妬みとかそんなんで、階段、仮設トイレを壊されても困るからな。



「僕達以外に人の気配はなかったよな?」

「ああ。コボルトは確かに仲間同士で争いを起す事はあるけど、あんな破裂するみたいな事はない」

「それに来た道を戻っていったのも変だ。あのおっさん、明らかにおかしい」


 僕が仲間に問いかけると、次々と不審な点を上げだした。


 さっきまで話していた男性に不信感を持ったのは仲間も同じみたいだ。


 だったら、するべき事は1つ。


「申し訳ないが尾行させてもらおうか」


 僕の提案に仲間は頷く。


 あの人はコボルトを狩る為にここに来たと言っていた。

 そして、あのコボルトの血痕と肉片。

 そういったものは時間が経つと勝手に消えるはずなのに、まだ残っていた。


 ああは言っていたが、コボルトを殺していたのは、十中八九あの男性。


 おそらく、探索者2人を助けたのも。

 

 ただ、なぜそれを隠す?


 それをする事でのメリットはなんだ?


 考えても考えても、あの男性の行動に納得がいかない。

 

 しかもあの男性が言っていた自分がレベル10という発言。

 あれは嘘ではない。

 何故ならレベル50以上になれば相手のレベルを視認出来る様になるから。


 でも短時間でコボルトを殲滅、更には自分よりも高レベルの探索者2人を助けるなんてレベル10で出来るはずがない。


 あーもう、なんなんだよ! 頭がおかしくなりそうだっ!


「おいっ! あの人あそこの仮設トイレに入っていったぞ」

「仮設トイレ?」


 プチパニックを起こしながら尾行する事や約10分。


 人気のない場所、1つの仮設トイレに男性は入っていったと仲間が教えてくれた。


「こんなところに仮設トイレなんてあったの――」


 ポツンとある仮設トイレに違和感を感じていると、仮設トイレはすーっと姿を消した。


 目の前で起きた事のはずなのに、信じる事が出来ない。


 そんな事象に驚いたのは仲間も同じようで誰1人口を開かない。


 こんなの人間が出来る事じゃない。


 ――人間じゃない?


「分かった」

「分かった?」

「ああ。あの男性は人間じゃない。イレギュラーな事象を収拾する、あのダンジョン自身。そうに違いない」

「えっと、それって……」

「きっと生まれるはずのないモンスターを処理、更には種族に罰を与えに現れたんだ。……ダンジョンは神からの授かりもの。【NO2】は神によって正常に戻されたのさ」

「神って、今の時代にそれは大げさすぎじゃな――」

「じゃあそれ以外に納得のいく説明が出来るかい?」

「それは……。でも、他では――」

「【NO2】の神は他のダンジョン……神よりも人間に友好的なのさ。姿も人間そのものだっただろ? ただ今回人間を救ってもらった事への感謝がなければ……」

「逆鱗に触れて、こっちがやられる」

「可能性はある。さっさと帰って報告、それと……お供え物の準備だっ!!」

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