第8話 なんかすいません

 パーンッ


「あ、この加減でも破裂するのか。でも、普通のコボルトより感触が残ってるし……もうちょっと軽く殴るか」


 腰の引けているコボルト【RR】の腹に潜り込むと手始めにジャブ。


 1発いれると、破裂する箇所は狭いけど、店長のところに持っていく事は出来ないグロッキーでショッキングな状態に。


 一応それでも息があるみたいだから実験も兼ねて、もう少し弱めで顔面を殴ってみる。


 するとコボルト【RR】は骨が砕ける音を鳴らしながらも、頭と首がくっついたまま遠くに吹っ飛んでいった。


 なるほど、この感覚ね。


「が、あああ……。ああっ!!」

「あっ! おいっ! 待てよ俺の肉っ!!」


 攻撃の匙加減を把握して、よし次はどいつにしてやろうかと思いながら視線を他のコボルト【RR】達に向けるとその内の1匹が遂に逃げ出してしまった。


 その後を追うようにして次々とその場を離れだすコボルト【RR】。


 こんな宝の山をとり逃がすわけにはいかない。

 逃がしたくない、離したくは、ないー。


 俺は懐メロを頭の中で流す位気持ちに余裕を持ってその後を追う。



「――はぁ、はぁ、はぁあ、ま、て」



 だが、俺のスタミナはあっという間に底をつき、今にも何か口から出てきそうになる。


 日頃の運動ってやっぱり大事だな。


「が、ぁ」

「今度は下か?」


 等々追い詰めたと思った先にはぽっかりと空いた大きな穴。


 そこからは漏れ出す白い光が不気味に映るが、コボルト【RR】達はそんな事を気にせず、穴の中へダイブを決める。

 あれがコボルト【RR】の巣か?


 そういえば、ダンジョンには通常のモンスター発生プロセスとは別に、大量のモンスターを1度に発生させる事が出来るスポーン地点があって、そこにはダンジョンの醍醐味である宝箱や深い層へのショートカットが出来る秘密の階段とかがあるとか無いとか。

 

 確かその地点の事をモンスターハウスって呼んでたような気がするが……。


 なんにせよ、これ、俺も飛び込む感じだよな。

 めっちゃ怖いんですが。


 あの、あれだ、度胸試しででかい岩とか橋の上から飛び込むあれと同じだ。


「えーい、儘よっ!」


 俺は意を決して穴の中に飛び込む、さっきいた所よりも少しだけ温かくて眩しい。


 これは目を開けていられない。


「ん、戻った?」


 辺りの温度が急に変わり、俺はゆっくりと目を開ける。



 ぶち、ぶちぶちぶち、ガリ、クッチャクッチャ、モキュモキュ、ゴックン。



「が、あ、があっ!!」


 汚らし音を立てながらコボルト【RR】もとい、クチャラーコボルト達は光の中から生まれてきた新しいコボルト達を噛み殺してむしゃむしゃと頬張る。


 おぞましい光景だが、何となく状況は読めた。


 モンスターハウスの発生した場所が悪すぎて、溢れたコボルト達が共食いを始め、生き残った1匹が【RR】まで進化する事が出来た。


 道は多分人間が開通させたが【RR】の恐怖に逃走、この場所を侵入禁止に決定。

 コボルト【RR】は広い場所に出る事も出来たが、人間の存在に脅威を、外に出る事へのリスクを感じたのか、それともこの無限に大量の餌が生み出るこの場所に居心地の良さを感じたのか、とにかくここを餌場に暮らしていたんだろう。


 そこをたまたま俺が見つけて、しかも元々居たコボルト【RR】を倒してしまった事で、同じ【RR】の個体が複数発生。


 その複数が今度はここを見つけて、餌無限生活を始めようとしていたってとこだろう。


 放っておいたら本当に【RR】以上の化け物が自然発生する【RR】の数だけ生まれて……場合によっては出入り口までそいつらが平気でうろつく地獄のような1階層が完成していたかも。


「割と本当に危機一髪だったのかもしれな――」



「がぁっ!!」



 状況の把握に思考を巡らせていると、複数いるコボルト【RR】の内1匹の身体が光始めた。


「え? まさか、そんないくらなんでも早くないか?」


 新しく発現したコボルト【RR】のレベルが高かったからなのか、それとも何か条件を満たしてしまったのか分からないが、これは多分進化の兆し。


 光が消え、目じりが吊り上がり、顔つきが変化、それに頭には王冠のようなものまで見えるように。


「あの視線……。動かれる前に攻撃しないと俺がやられるかもしれない。えーっと、取り敢えずこれで意識を逸らさせよう」


 俺は地面に落ちていた小石を拾い王冠を乗せたコボルトの左手前辺りを狙って投げた。


 意識を逸らさせて、その間に一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けようという単純な作戦、のつもりだったんだけど――


「が、あ、ああぁぁ……」


 何故かその小石を弾こうとして王冠を乗せたコボルトは頭突きで対抗しようとして。



 ――ズシン。


 『DEATH』


 そのまま地面に倒れ死んでしまった。


「えっとぉ、なんかすいません」


 あまりにあっけなく終わってしまったから俺は取り敢えず残ったコボルト【RR】達に謝ると、その全てを殺し尽くしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る