第4話 ステータス

「ボーナスの額融通効かせてくれるんですか!?」

「融通効かせてやるっていうか、まぁ一応聞くだけだ。この肉がとびきり高級品でもうちに金がないのは変わらんし……。ただ、チャンスは見出だせるかもしれん。これを機に新規の客層を開拓して……出来ればこれを恒常メニューとして出せないもんかな」


 店長は俺の顔をチラチラと見てくる。


  いや、俺だってこんな奴を手軽に狩りたいけどさ、流石にこんなのがゴロゴロいるはずないじゃん。

 今狩り場にしてる所より下のもっと危険な階層なら分かんないけど……。


 いかんせん行った事ないから今の俺で通用するかどうかもよく分からん。


 んーそういや【ステータス1000倍】の効果で攻撃力とか実際どのくらいの数値になるんだ?


 ダンジョンは階層ごと指標はあるけどそれは全部レベル。

 そもそもあの階層から出る事なんて考えもしてなかったからレベル以外はまるで眼中になかった。


 でも今後は能力のステータスも閲覧して参考にしないとだよな。


「『ステータス』」


 俺は店長の視線を気にしながらステータス画面を開き、『各能力値詳細』という欄に触れた。

 通常のウィンドウにはHPの残りが色で表してあり、状態異常、スキル、名前、年齢だけの必要最低限の情報しか見る事が出来ないが、これに触れると詳しい能力の値が分かる。


 この画面を開くのはもう何年ぶりかな……って。


「あの、あんまり覗かれるのは好きじゃないんですけど……」


 いつの間にか店長が悪びれる様子もなく画面を覗き込んでいた。

 顔が近い。それに鼻息が荒いのが気になる。


「雇用者は雇用した探索者のレベルを含める実力の把握した上で適切な種類のダンジョン又階層を指定し派遣させなければならない。明らかに無理な派遣を共用した際は責任を負う。これも今後安全に仕事をしてもらう為に必要な事なんだ」

「いつも多少怪我するくらい無理してでもノルマ分のコボルトを持ってこいって五月蝿いくせに……」

「ん? 何か言ったか?」

「いーえ」


 小さい声でボソッと発した反論は都合よく聞こえなかった。

 最近の店長は見た目だけじゃなく耳まで老化してきているらしい。


「まあいいか。それより凄い事になってるぞそれ」


 店長は俺が表示させたステータス画面を指差した。


 俺はそれに釣られる様に視線を移す。


―――――

名前:宮下要(みやしたかなめ)

年齢:32歳

HP:4045

攻撃力:3035

魔法攻撃力:2000

防御力:3035

魔法防御力:2023

幸運値:1011

クリティカル率:10%

スキル:《大器晩成【ステータス上昇1000倍】》

習得魔法:無し

―――――


「おお、軒並み4桁……。確か俺が何年も前に見た時は1桁で――」

「宮下、俺は新しい人材を探しに行く事もたまにあるからレベルごとのステータスの平均なんかもある程度把握しているんだが……これがどのレベル相当の数値なのかさっぱりだ。こんなの見た事も聞いた事もないぞ」

「店長、これってやっぱり凄いですか?」

「凄いも何も……。ドラゴンだって問題なく、1人で倒せるかも……」

「じゃあ格安でドラゴンを提供出来る自分の店でも作ろっかなぁ、なんて――」

「頼むっ!後生だからそれだけは止めてくれっ!こんなステータスの探索者に俺が、この店が出来る事なんて殆どないかもしれないが、ボーナスも昇給も出来るだけの事はする。だからこの店を辞めないでくれっ!」

「別に辞めるなんて本当に思ってな――」


 カランッ。


 その時、開いたままの扉の奥でトレーが落ちる音が響いた。


 そしていつもクールで表情を変えない店長の娘、森本景(もりもとけい)さんの姿が。


「や、め……」

「あ、あの、辞めませんから絶対っ! 景さんに誘われた事は本当に感謝してますし……。だから今日からは、今までの分俺がこの店を――」

「ほ、本当だな!?言質とったからな!」

「えーっと、話が見えないのだけれど……。それにそのコボルトは何?」


 店長はニヤニヤしながら落ちたトレーを拾いあげると、俺がとんでもない成長を遂げた事とこれからは高級な肉が激安で手に入るという説明を景さんにするのだった。


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