第3話 ホラじゃないんだが
「はぁはぁはぁ……。出入口まで手伝ってくれる人がいないとかマジかよ。ドライすぎるだろみんな」
進入禁止場所から抜け出した俺は気絶していた2人を担いでなんとかダンジョンの出入口になっている階段付近まで移動した。
それにしてもステータス上昇1000倍の力で2人を運べるくらい、それ以上に道をふさいでいた岩もぶっ壊せるくらいの怪力になったのがヤバすぎる。
匙加減の調整が簡単だから何とかなってるけど、こんな力が常時だったら私生活で絶対困ってたな。
スーパーサ●ヤ人状態の孫●空が軽く握っただけでグラスのコップを割るシーンをリアルで再現するとこだった。
「――大丈夫か!?」
「俺は大丈夫なんですけど、こっちの人達に意識がなくて……。って店長探索者じゃないでしょっ! ダンジョンに入って来たら危ないですよっ!」
「探索者の奴らもここの受付も協力しようとしないんだからしょうがないだろっ! 外に救急車を待たせてる! 無事なら宮下も協力しろ!」
非常事態だったから連絡したけど、まさか勤め先の店長自らが来るなんて……。
俺もう2人をここまで運んだから後はお任せします……なんて言えるわけないよな。
「俺はこっち、宮下はそっちを頼む!」
「了解です」
俺は倒れていた1人を担いだ。
お、1人ならそんなに重くないな。
「くっ! こいつ結構重いな」
「じゃ、俺が先に行きますね店長」
「え?」
俺は意外そうな顔をする店長をよそ目に俺は走って階段を駆け上がるのだった。
◇
「――それで、宮下がそのでかいコボルトを倒したってのか?」
「まぁ、はい」
「……。ふっ、あはははははははははははははっ!!! あ、あの、レベル10にすらなってない32歳の探索者が、自分よりレベルの高い探索者が倒せなかったモンスターを倒した? 宮下、今日はやけにボケが冴えるな!」
何とか面倒事を済ませて店で今日の報告をすると、店長の森本さんは失礼なくらい腹をかかって笑って見せた。
60過ぎて元気がいいのはいい事だけど、遠慮がなさすぎるだろ。
「嘘じゃないですよ。それに今日もうレベル10になりましたから。約束通りボーナスを――」
「おっと、そういえばさっきタレの補充お願いされてたっけ……」
「そんなの跡でやって下さいよ。どうせ今日も――」
「まぁまぁそんなにカリカリするなって。その仕事が終わったらボーナスの話も、冗談も聞いてやるから」
「ちょっ――」
バタン。
見せの奥にある従業員用の休憩室から店長は出ていった。
この店はモンスターの肉を提供している焼き肉屋。
俺が勤め始めたときは物珍しさでそれなりに客はいたんだが、希少で高級なドラゴン肉を提供する店が流行り、コボルトとかオークといった肉はドラゴン肉を持ち上げる為のかませ犬的ポジションに……。
終いには牛肉や豚肉の劣化なんていう批判をされ、そんな肉ばかりを提供しているこの店は正直廃れ始めている。
探索者達は肉を廃棄、アイテム欄を圧迫するからダンジョンで放置するのが殆ど。
たまに法外な価格で吹っ掛けてくる馬鹿は今も昔もいるけど、流石にそれを買い取る店はない。
そんな肉を目に付けて一発当てた店長は凄いの一言だったけど……まさかこんな逆風が吹くなんて……。
店長は流行りに乗っかってドラゴンの肉の焼き肉屋も考えたみたいだけど、ドラゴンを倒せる探索者を雇うにはそこそこの資本金が必要。
大手チェーン店なんかだとそんな高給取りだがレベルの高い探索者もガンガン雇えるけど、そんな金がこの店にあるはずもない。
それどころか、そこそこのレベルに育った探索者ですら先を見込まれて引き抜きにあう始末。
こんな事が他の企業や店でもあるから、所属の違う探索者同士は基本仲が良くない。
とはいえ、あそこまで困ってる人間を見捨てる奴らとは今日まで思っていなかったが……。
「まぁ、ダンジョンが現れたとはいえ世知辛い世の中だもんな。そもそも俺なんか森店長、というか景さんに誘われなかったらこの渦中にいる事さえ出来なかったかも……」
大学在学中に探索者の取得、それで4年までにはさっきの階層でそこそこ活躍出来るレベル20前後っていうプランもあったが、蓋を開ければ社会人レベル0からのスタート。
こんな俺を雇ってくれて本当に店長には恩しかない。
「そんでもあんだけ笑われたら癪に障るのが人間……。仕返しにちょっと驚かしてやるか。『ステータス』」
俺はステータス画面を開くとアイテム欄からさっきのコボルトの死体を取り出そうとする。
しかし、アイテム欄にあったのは『コボルト【RR】の死体』×1という表記。
この【RR】っていうのに全く見覚えはない。
「変な表記だけどまいっか。これは店長も驚くだろ」
俺はそれをタップして【取り出す】のコマンドを選択する。
――ドスン。
すると大きな物音共にさっきのコボルトの死体がその場に現れ、部屋の殆どのスペースを埋めた。
客がいないとはいえ大きな音を出し過ぎたのは良くなかったか?
「お、おい今の音はなん――」
案の定店長は慌てるように部屋の扉を開けた。
こりゃ驚かす前に怒られるかもしれんな。
「ええっとおっきな音を出したのは悪かったんですけど、ほら今日はこんなにコボルトの肉が手に入っ――」
「宮下、これどこで手に入れたんだ?」
「え? さっきのダンジョンでですけど。ほら、スマホで連絡したコボルト――」
「これはただのコボルトじゃない。前に1度市場で高値で取引されているのを見た事がある。これは確か【RR(ダブルレア)】のコボルト。その時はまるまる1匹で競られてて……ブランド牛相当の価格だったはず」
「そ、それ、ま、マジですか?」
「それだけ討伐が難しいモンスターって事らしいが……。宮下、これお前だけで倒したのか?」
「えっと……はい」
「……。宮下、ボーナスはどれぐらい欲しいんだったっけ?」
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