44
衝撃的な真相に、桔花はよろめいた。
学長の娘。関わってはいけない女が?
霊ではなく、生きた人間だと分かっただけでもショックが大きいのに、その上、こんな話……。キャパオーバーだ。受け止めきれない。
桔花は繁夏に助けを求め、学長をソファーに座らせた。
「すまない。黙っていて申し訳なかった。本当に、何と言ったらいいか」
おろおろする学長に、繁夏は静かに問いかける。
「それ、事実なの? だとしたら、許されることじゃないわ」
「繁夏さん、待って下さい。まだ、まだ理由を」
「理由なんて聞く必要ない。あるとすれば、保護者や生徒を騙していた事実だけ」
正義の子は、静かに怒っていた。声を荒げてもいないのに、それが伝わってくる。
「どう責任を取るつもりですか。何と説明するつもりですか。長きに渡って、こんな大掛かりな嘘をついて!」
「落ち着いて下さい、繁夏さん!
やっぱり、話を聞きましょう。納得のいく理由があれば!」
「……納得のいく理由?」
氷のように冷たい視線が、桔花に向けられる。
「そんなものがあると思う? 学長はね、何をしでかすか分からない人を、学園内で野放しにしていたのよ! あなたなら分かるでしょう! 関わってはいけない女を見たんだから!」
繁夏が桔花の肩をつかんだ。爪が食い込んで、痛みが走る。
「どうだったの、その女は! フレンドリーに声をかけてくれたの? 意思疎通がはかれたの? 普通の人と変わらない、まともな匂いはしたの? 違うでしょう!?」
「それは、」
喉の奥がツンとして、声が出ない。見たことないほど歪んだ繁夏の顔が、怖くてたまらなかった。
「どうかしてるわ、桔花さん。あなたも、まともじゃなくなっちゃったの?」
否定したかった。声を大にして。
知里のいじめを見て見ぬフリした時もそうだった。繁夏にだけは、誤った目で見られたくなかった。なのに、言葉が出ない。
「繁夏さん、彼女に当たり散らすことではないでしょう。私1人にしなさい」
さっきの弱々しい姿とは打って変わって、しゃんと背筋を伸ばした学長がこちらに近づいてきた。繁夏の手が、肩から引き剥がされる。
「桔花さん、先に寮に戻っていてくれますか? 彼女と2人で話がしたいので」
「私は、話したくない。裏切り者なんかと」
「大丈夫です。きっと、分かってもらえると思うので」
その場を離れることに、抵抗がなかったわけじゃない。桔花は渋った。この状態の繁夏を残してはいけない。冷静な判断ができない今は、気持ちを落ち着かせることが先だと。
だけど、学長は首を縦に振らなかった。
「大丈夫です。夕食には間に合わせますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます