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衝撃的な真相に、桔花はよろめいた。

学長の娘。関わってはいけない女が?

霊ではなく、生きた人間だと分かっただけでもショックが大きいのに、その上、こんな話……。キャパオーバーだ。受け止めきれない。

桔花は繁夏に助けを求め、学長をソファーに座らせた。


「すまない。黙っていて申し訳なかった。本当に、何と言ったらいいか」


おろおろする学長に、繁夏は静かに問いかける。


「それ、事実なの? だとしたら、許されることじゃないわ」

「繁夏さん、待って下さい。まだ、まだ理由を」

「理由なんて聞く必要ない。あるとすれば、保護者や生徒を騙していた事実だけ」


は、静かに怒っていた。声を荒げてもいないのに、それが伝わってくる。


「どう責任を取るつもりですか。何と説明するつもりですか。長きに渡って、こんな大掛かりな嘘をついて!」

「落ち着いて下さい、繁夏さん!

やっぱり、話を聞きましょう。納得のいく理由があれば!」

「……納得のいく理由?」


氷のように冷たい視線が、桔花に向けられる。


「そんなものがあると思う? 学長はね、何をしでかすか分からない人を、学園内で野放しにしていたのよ! あなたなら分かるでしょう! 関わってはいけない女を見たんだから!」


繁夏が桔花の肩をつかんだ。爪が食い込んで、痛みが走る。


「どうだったの、その女は! フレンドリーに声をかけてくれたの? 意思疎通がはかれたの? 普通の人と変わらない、まともな匂いはしたの? 違うでしょう!?」

「それは、」


喉の奥がツンとして、声が出ない。見たことないほど歪んだ繁夏の顔が、怖くてたまらなかった。


「どうかしてるわ、桔花さん。あなたも、まともじゃなくなっちゃったの?」


否定したかった。声を大にして。

知里のいじめを見て見ぬフリした時もそうだった。繁夏にだけは、誤った目で見られたくなかった。なのに、言葉が出ない。


「繁夏さん、彼女に当たり散らすことではないでしょう。私1人にしなさい」


さっきの弱々しい姿とは打って変わって、しゃんと背筋を伸ばした学長がこちらに近づいてきた。繁夏の手が、肩から引き剥がされる。


「桔花さん、先に寮に戻っていてくれますか? 彼女と2人で話がしたいので」

「私は、話したくない。裏切り者なんかと」

「大丈夫です。きっと、分かってもらえると思うので」


その場を離れることに、抵抗がなかったわけじゃない。桔花は渋った。この状態の繁夏を残してはいけない。冷静な判断ができない今は、気持ちを落ち着かせることが先だと。

だけど、学長は首を縦に振らなかった。


「大丈夫です。夕食には間に合わせますから」

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