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遡ること、数日前。
桔花は晃との約束を果たすために、繁夏に話を聞いていた。クラスメイトが例の女と関わってしまった可能性があると、1から説明する。
彼女は口を一言も挟まずに、最後まで聞いてくれた。
「……この話、知っているのはあなただけ?」
「今はまだ、そうだと思います。多分」
「まずいわね。早急に手を打たないと」
繁夏が注目したのは、関わってはいけない女が恋愛相談に助言したというところだ。『誘え』と言ったのが聞き間違いじゃないとしたら、女は自分の意思でコミュニケーションをとったことになる。そんなことは、今まで一度もなかったらしい。繁夏が架秋に来てから今日まで、関わってはいけない女は校内を歩き回るだけの存在だった。そのために、始めは面白がっていた生徒たちも、3日とたたずに飽きてしまったそうだ。彼女は生活の一部として、景色に溶け込んだ。
それが今、人と接触した。会話した。意思疎通を図った。
「晃さんのように、関わりを持つ子が増えるわ。反応したのが恋愛事、なおかつ成就させたとなれば、恋する女の子たちは飛びつくでしょうね」
呪いなんて関係なしに、今を生きる少女たちは、今さえ上手くいけば後先はどうでもいい。そんな考えを持つ子が多いだろう。
「このままじゃ、みんな呪われてしまう。また死人が出るかもね」
いやにあっさりと彼女は言う。呪いを信じていないからか、はたまた、他人の死に興味がないからか。判断できなかったが、どちらにしても無表情に告げる繁夏に薄ら寒さを感じたのは事実だ。
「とにかく、近いうちに学長に相談してみるわ。桔花さんも気になる事があったら、すぐに報告して」
「はい。……あの、1つだけいいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「関わってはいけない女は、私たちと同じように生きている人間なんですか。女子生徒の霊ではなく」
せめて、この問いにだけは答えがほしかった。桔花は縋るような気持ちで、繁夏の目をじっと見つめた。嘘が入り込まないように、瞬きせず。
「分からないわ」
彼女の声が、いつかの知里と重なった。関わってはいけない女を見たかと聞いた、あの時の。
「私は、例の女に近づいたことがないから。その点、あなたの方が詳しいんじゃない?」
「……知里に聞いたんですね。どんな話をされたか知りませんけど、私も良く分からなかったんです」
「そう。これも学長に確認かな。全く、厄介なことになった」
眉間を揉みながら、繁夏は目を閉じた。
「ま、彼は多忙だから、いつになるか分からないけど。話が聞けたら教えるわ。それまで、自分勝手に動かないこと」
「分かりました。首を長くして待ってます」
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