35
繁夏。……そうだ、繁夏だ!
これこそ名案と言わんばかりに、桔花は大きくうなずいた。
「分かった、こうしよう」
「何よぅ、勿体ぶって。どうせ、何も浮かんでないんでしょ。もういいってば。
そのかわり、桔花も巻き添えにするから、そのつもりで」
「早まらないでよ。今度はちゃんと思いついたんだから! 私、聞いておいてあげる」
「……何を?」
「繁夏さんに! 関わってはいけない女のこと!」
疑問符を浮かべる晃に詰め寄り、いかに彼女が優れた人間かを説く。しっかり者で努力家で、人からの信頼も厚い。何に対しても熱心に取り組んでくれるし、人からの期待を裏切らない。必ず応えてくれる。それは学園の中だけじゃなく、寮内でもそうだ。様々な相談が彼女の元に寄せられるが、どれも解決に導いた。
武勇伝を語り出したら、1日じゃちっとも足りない。
「桔花のところの室長が優秀なのは分かった。生徒会長をしている人だし、うん、すごいとは思うよ」
「でしょでしょ!」
「うん。……でもさ、だからって、関わってはいけない女のことに詳しいってわけじゃないでしょ。それとも、裏の顔は七不思議ハンターとか?」
今度は桔花が首を傾げる番だった。七不思議ハンターか。初めて聞いた職業だ。
学園に蔓延る七不思議の噂、それに呼ばれてやってくる最強の敵たち。正義の味方、繁夏は生徒を守り抜くことができるのか……!
壮大なオープニングが始まりそうになった時、意識を呼び戻された。すぐに空想の世界に入ってしまう癖をどうにかしないと。桔花は反省した。話の途中だということもお構いなしに、黙りこくるのは良くない。
「それで、どうなの? あの人は、何か知ってそうなの?」
腕時計をチラチラ見ながら、晃が尋ねる。確証はないが、繁夏の後ろには学長がいる。学園内で起きている異常についてなら、彼の方が詳しく把握しているはず。あくまでも推測に過ぎないが。少なくとも、入学して4ヶ月ほどの生徒よりは知っているはずだ。そこに賭けてみるしかない。
「私は、何か知っていると思う」
「よし。なら、お願い。私と彼のためにも、呪いを免れる方法を見つけて」
簡単に言ってくれるが、そうポンポンと真相が明らかになることはないだろう。学長が何も知らないというパターンもあり得る。先代に言われたから、関わってはいけない女の話を語り継いでいるだけで、その内容はうっすらとしか聞かされていないとか。そうなると手詰まりだ。
「はぁ、最悪だよ。こんな若くして、自分の死と向き合わなきゃならないなんて」
晃は不安を拭いきれず、憂鬱そうな顔をする。本来なら楽しいはずの夏休み。たった1つの気がかりのせいで、こんなにも変わってしまう。
元気づけてあげられないだろうか。これじゃ可哀想だ。
「大丈夫。きっと、良い方向に進むよ」
桔花は明るく笑って、晃を抱きしめる。
「関わってない人に言われたくない。キボウテキカンソクでしょ、そんなの」
「そうだけど……。そもそも、関わるって何? どこからが呪いの対象なの?」
その問いかけに、彼女は答えられない。
「同じ学園にいる時点で、みんな関わってると思わない? でも、誰も死んでない。呪われてもない」
「確かに……」
「ね? あまり気にせず、ドーンと構えていてもいいと思うよ。私もできることはやるし、何か分かったら連絡する」
ようやく、晃は納得したようだ。何度もうなずきながら、「そうだよね、みんな関わってるじゃん」「その程度が小さいか、大きいかってだけだもんね」と呟く。その顔には、少しずつ希望の色が戻ってきているように思えた。
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