36

晃と別れたその日のうちに、桔花は行動に移した。まずは、繁夏が戻ってくるまでに、自分が知っている情報を整理する。これによって、新たな謎が浮かんでくるかもしれないし、呪いを解く鍵が見つかるかもしれない。『かも』ばかりなのが辛いところだが、ここが踏ん張りどきだ。桔花は自分を奮い立たせた。


最初に始めたのは、担任である蘭子に聞いた話をまとめることだった。彼女が教えてくれたものがメジャーで、1番手が加えられていない気がしたからだ。しかし、何分、入学式の時にしてもらった話だ。記憶が曖昧で、詳しくは思い出せない。もう一度聞きに行ったとて、あの頃とまるっきり同じには語ってもらえないだろう。仕方がない。確実に覚えている部分だけを書き出してみよう。


近くに置いてあったノートの山に手を伸ばす。空白のページが多いのは、ダントツで地理だ。プリント学習が多く、滅多に使わないから。回収するようなこともないし、メモくらい、いいだろう。それに、担当の馬渕梢まぶちこずえなら、例え見つかっても怒らないと分かっていた。彼女はとにかく説教が苦手で、授業中にいくら私語があっても、注意すらしない。できない人なのだ。教師として致命的だが、こういう一種の諦めを持った教師というのは、生徒に好かれやすい。自分の害にはならないと判断されるんだろう。




地理のノートの後ろを開き、思いついた言葉や文章をつらつらと書いていく。



〈蘭ちゃん先生の話〉

・関わってはいけない女は、

 この学園に通っていた女子生徒の霊

・関わらなければ害は無い

・存在そのものを無視する



鮮明に覚えていたのは、この3つだけ。

当時は疑問にも思わなかったことに、今の桔花なら気づけるかもしれない。他の話と比べて、明らかにおかしな点、矛盾点を探すんだ。元から派生したもの、尾びれのついたものも、大事な情報。見聞きした全てと照らし合わせていく方針で進めることした。

次ページには、自分が実際にあの女を目にした時のことを書いた。



〈私が見た、関わってはいけない女〉

・顔が見えないほどに長い髪。ボサボサ。



手が止まる。それしか印象にない。見えていたのは髪の毛だけだったし。混乱していて、制服まで確認する気力が無かった。でも、知里の対応はただの客に対するものじゃなかった。関わらなきゃいいだけ、とかなんとか言っていた覚えがある。だけど、あれが本当に関わってはいけない女だったのか、決定的な証拠はない。別の人間の変装だったかもしれない。せめて、制服さえ見ていれば。古い形のものならば、関わってはいけない女だと断言できたのに。

……今更だ。

桔花は次の重要証言をまとめるべく、ノートをめくった。



〈晃の話〉

・関わってはいけない女は生きている



これについては、未だに半信半疑だった。晃には悪いが、生きている人間説が通ってはまずい。蘭子の語っていたことと矛盾するからだ。

女子生徒の霊だからこそ、安心できていた部分もあったし、事実だとしたら学園の信頼が地に落ちる。大抵の人間は、霊やら呪いやらを軽んじる傾向にある。怖い怖いと言いながらも、まあ、そんなものは嘘でしょうと、どこか冷めた目で見ているのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る