ガベージコネクション
阿紋
1-1
ショーソンの「詩曲」は、ツルゲーネフの小説に基づく交響詩として作曲をはじめられたらしい。何という小説かはわからないけれど、ツルゲーネフっていうと「はつ恋」ぐらいしか思い浮かばない。その「はつ恋」も高校の頃に読んだきり。他にはシュトルムの「みずうみ」とかも読んだかな。今聴いている「詩曲」のメランコリックな雰囲気に似ていたような気がする。とはいっても「詩曲」は作曲の過程で標題音楽から離れてしまうのだけれど。
「イベントには行かないの」
下のギョーザ屋のフミちゃんが、事務所のドアから顔を出した。
「アイドルが出るらしいよ。好きなんでしょう、アイドル」
そういえばフミちゃんにそんな話をしたことがあったような。アイドルポップを聴いていたのは、ずいぶん昔の話なんだけど。そもそも、今日駅前に来ているアイドルはかなり政治的らしいし。
「脱原発。CO2も減らせ」なんてさ。のぼりが出ていたよ。だとしたら、どうやって電気起こせばいいのか。これに「ダム建設反対」をあわせたらこの国は真っ暗になっちゃうよ。
今の世の中、電気がないと何もできない。僕はここの商店街のちょっと怪しい明りも好きなんだ。ショーソンの「詩曲」は似合わないけどね。
「ねえフミちゃん、ツルゲーネフ読んだことある」
僕はドアのところでウダウダしているフミちゃんに聞いてみた。
「何の本。雑誌の名前。わかんないよ」
そういえば、フミちゃんはこんなところでウダウダしていていいんだろうか。ツルゲーネフは知らなくても、下のギョーザ屋はフミちゃんで持っているようなもので、この時間に店を放ったらかしにしておいていいはずがない。おやじさんはフミちゃんにはだいぶ甘いけど。
「行かないの。行かないならあたし一人で行く」
ドアが閉まる。やっぱり行くのか。今日は風評被害の野菜を売るイベントらしいから、ギョーザと無関係ってわけでもないか。野菜安いのかな。アイドルはともかく、しばらくしたらのぞいてみようか。
そう思ったときに電話が鳴った。どうせ飲みにでも行こうっていう誘いの電話だろう。わざわざ出ることもないだろうと思いつつ、律儀に電話を取ってしまう。
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