第26話 悪魔が送り迎え
翌朝、悪魔が二階の自室で目を覚ますと、窓の外に
彼女は
そういえば昨日の夜に「明日は朝から部活で」という話をしていたなと思いながら、悪魔はベッドから下り、ほとんど物が見当たらないクローゼットの中から
ベッドの上の置時計(佐久間の両親が「何かの景品でもらったものだけど」と言って渡してくれた)に目をやれば、時刻は午前七時過ぎ。
佐久間の両親が「あんまり始めから
日本についての知識は佐久間が教えてくれるとのことだったが、あくまでもそれは今後のシナリオを
当面は時間のあるときに街に出て、彼の手足となって動いてくれる人間を探すのがいいだろう。佐久間みたいに嘘を見抜ける人間がそう多くないことを願って……。
動かせる
もう一つ、悪魔側の人間を増やす方策として彼の頭に
日本だと内閣総理大臣という表のトップがいて、この数日リビングで食事をとっているときに度々テレビでその姿を見かけたが、どうにも彼は頭を下げてばかりで、話す内容も薄っぺらく、さして国民から大きな信頼を寄せられているようには見えなかった。それに、日本にやってきたばかりで馬の骨とも分からない彼がその職を手に入れるのは困難を極める。ならば今の内閣総理大臣を
多くの国民に多大な影響力を持つという意味では、動画配信サービスやSNSで有名になるという手もある。実現可能性という点では総理大臣になるよりもこちらの方が高そうだ。しかし、すでに多くの
いずれにせよ人脈を築くことにある程度の時間を
一階のリビングに下りると、すでに彼の分の食事が準備されていた。
「あら、おはよう、
キッチンで調理器具を洗っていた佐久間の母が顔を上げる。
ベーコンエッグにレタスとプチトマト、ふっくらとした白ご飯、そして湯気の上るお
「今から起こしに行こうかと思っていたのだけれど、ちょうどよかったわ」
彼女はそう言って微笑んだ。
佐久間は肩ほどで切り
身に着けていた紺色のデニムエプロンを外し、彼女はキッチンから出てきてリビングのテーブルにつく。悪魔と彼女がテーブルを
「いただきます」
彼女に続いて悪魔も復唱し、この数日で少しずつ使い方に慣れてきた箸で料理を口に運ぶ。
佐久間の父親はすでに食事を済ませ、七時から開店の準備をしているとのことだった。
リビングのテレビでは、朝のニュースを報道していた。内容は
「――次のニュースです。東京都内に住む十五歳の女子中学生の
ニュースを見ていた佐久間の母が、
「……早く見つかるといいわね。最近若い子の
と
「できれば学校への送り迎えもしてあげたいのだけれど、店のほうがあるし……」
そこまで言ってから、彼女はいいことを思いついたとでも言うように「そうだわ」と手を打つと、
「阿久多くん、
「……送り迎え、ですか」
「そうよ。あの子が失踪事件に巻き込まれないように、外を出歩くときはなるべく付き添いをお願いしたいの。平日の学校の行き帰りとか、今日みたいに休日に部活があって学校に行かなきゃいけないときとか、あと他の用事で出掛けるときも。もちろんアルバイトのほうは
親が子どものことを心配するのは当たり前だという知識は確かに悪魔の中にもあったが、これは中々にレベルが高いなと彼は思った。親ばか、とまではいかないのかもしれないが、中学生にもなって送り迎えをしてもらうというのは、佐久間としても周りの目が気になって仕方がないのではないだろうか。まあ、佐久間のことは説得すると言っているので、その点について彼がとやかく考える必要はないか。
それよりも彼が考えるべきことは自分の都合だろう。
悪魔側の陣営を増やし、三年後に日本国民の過半数をとること。
この目標を達成するために直近でやるべきこととして情報収集や駒探しを考えていたわけだが、佐久間の送り迎えをするとなるとどうしてもそれらに
アルバイトは最低限のお金を手に入れるために必要なのでやっているが、佐久間の送り迎えはいわばボランティアだ。ボランティア活動に時間を
ここは
「もちろんお金は出すわ。送り迎えワンセットで一回千円なんてどうかしら」
「やらせていただきます」
こうして悪魔は金に
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