【1話完結】ぴろゆき無双〜なんだろう、世界滅ぼすのやめてもらっていいすか?〜

伊地知 和義

第1話

ある日のことだ。

僕がいつも通り、ライブ配信をしていた時のこと。


「うおっ!なんすか? これ」


パソコンの画面がいきなり光出した。

僕は、パソコンの光に目をパチパチさせながらヘラヘラしている。


次の瞬間、僕はパソコンの中に引きずり込まれた。




気がついたら、白い部屋にいた。


「目が覚めたか、異界より招かれし世界を救う勇者よ」


「あのー、あなた誰すか?」


目の前には、神聖なる光を漂わせた大男が立っている。


「私は神だ。今現在、魔王によって滅びゆくこの世界を救ってもらうため、貴様をこの世界へと召喚したのだ」


「なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいすか? いきなり異界だの、召喚しただの言われて信じる人ってバカだと思うんすよね」


「今はそう思っていても構わん。だがいずれわかる時が来るだろう。勇者よ、どうかこの世界を救ってくれ」


そう言って、声は遠のいていった。

意識が薄れていく。







「―――様。勇者様! 大丈夫ですか?」


気がつくと、王城の玉座の間のような場所に立っていた。

どうやら、本当に異世界転生したみたいだ。


「あ、お気遣いありがとうございまーす」


「いきなりぼーっとしだしたので、ビックリしましたよ。いくら勇者様といえど、王様の前でその態度はやめた方がいいと思いますよ」


と、小声で王の従者に言われる。

では、この目の前に座っているのが王様とやらか。


「勇者よ、そなたにはこの世界を脅かしている魔王を討伐してもらうべく、人族最強の魔術師により、ここへと召喚したのだ。どうか、この世界を、人族の安寧を取り戻して欲しい」


「あのー僕、さっきまでライブ配信してたんすよ。で、家で僕の彼女というか奥さんというか細君というか、まあ嫁なんすけど、待ってるんすよね。なので、早く返してもらっていいすか?」


「もといた世界に帰りたいと申すか。だが、魔王の持つ秘宝でしか元の世界へは帰れんぞ。」


「それってあなたの感想ですよね? なんか他に帰る方法とかないんすか」


「他に帰る方法は無いのだ。魔王が全てを奪うか壊してしまったからだ。だから、帰るには魔王を倒すしかないわけだ」


どうやら王は嘘をついている様子もない。

どちらにせよ、魔王を倒すほか変える方法は無いようだ。


「はぁ……じゃあ、早く装備とか用意してもらっていいすか」


「魔王討伐を受け入れてくれたか! 装備については最高の技術を持つ鍛治職人に既に用意させてある。それから、出発は明日だ。今宵は宴をぜひ楽しんでもらいたい」


こうして、勇者歓迎の宴が始まった。

僕はたくさんお酒を飲んでしまった。

明日出発だというのに。




翌朝、国を出る時にたくさんの人に見送りをしてもらった。


国の外は魔物で溢れ返っていた。


「へへへ、これが魔物すか? なんかちっさくて可愛いすね」


道中様々な魔物に遭遇したが、勇者となった僕には敵ですらなかった。

なにより、一緒についてきた魔術師と剣士の2人がほとんど片付けてくれた。


「勇者様には魔王を倒すまで力を温存してもらいます」


というわけだ。






しばらく馬車で行くと、遠くに城のようなものが見えてきた。


「勇者様! あれが魔王城です。ここからは魔物が桁違いに強くなるので気をつけてください」


そうやって忠告してくるのは、王城で僕に話しかけてきた従者だと思っていた人物だ、どうやら彼は剣士だったらしい。


「へー、魔王の城だからもっと禍々しい感じだと思ってたんすけど。むしろ、王城とほぼ変わんないっすね」


そういいながら、僕は遠くに見える城を見やる。


「魔王と言っても、かつては人間だったのです。道中倒した魔物達も、かつては人間でした。ですが彼らは、魔力を取り込みすぎ、あのような形へと変貌していったのです。」


「へー、なんか気持ち悪いっすね」


聞かなければよかったと、僕は少し後悔をした。

さっき殺したちっさくて可愛いとか言ってた魔物は、なるほど、元は子供だったというわけだ。


なんて、話をしているうちに魔王城の門の前まで辿り着いた。


「勇者様、着きました。これからの我々の戦いに人族、いや世界の命運がかかっています! 絶対に勝ちましょう!」


そうして僕達は、魔王城へと入って行った。


魔王城の中は随分と暗かった。

外から見た時は、王城とそう変わりはないと思っていたが、中を見てここには魔王城と呼ばれるに相応しい禍々しさが満ちていた。


「貴様が我らが魔王様を倒すべく召喚されたという勇者か。だがな、ただで魔王様の所へと辿り着けると思うなよ? 道中どうせ力の温存でもしていたんだろうが、それも無駄だったというわけ……だ……? ぐはっっ!」


なにかペチャクチャと話していたいかにも中ボスっぽいやつを話の途中で剣士が切り伏せた。


「こんなやつに、構っている場合ではありません! はやく魔王の所へと急ぎましょう!」


そうして僕らは2階へと上がる。


2階に上がると、またしてもいかにも中ボスっぽいさっきのやつよりは強そうなやつがいた。


「随分と早いじゃないの〜。でもココから先へは、と・お・さ・な・い」


瞬間、目の前に巨大な石像が現れた。


「ボクのゴーレムはこの世界のあらゆる攻撃、魔術を受け止める。さあ、君たちに倒せるのかな〜?」


隣を見ると、歯を食いしばった剣士とローブで顔は見えないが、雰囲気からして悔しそうにしている魔術師がいた。


迫り来るゴーレムによる怒涛の攻撃。

それに負けじと、魔術と剣撃を放つ剣士と魔術師。

だが、それも虚しくゴーレムには響かない。


「あれれ〜? 勇者サマは動かないのぉ? 残念だな〜、お仲間さん死んじゃうよぉ」


そう言っている間にも、ゴーレムと仲間との激しい攻防は続いている。

正直いって、彼らが倒れるのも時間の問題だろう。


これは、僕がやるしかないようだ。


「お? やっと動く気に……え?」


やつは驚いた様子で見ていた。


目の前でゴーレムが真っ二つに割れる様を。


「えっと、よくバトル漫画とかで見る、自分の攻撃の仕組みをバラして負けるっていうやつがいると思うんすけどー、僕そういうやつバカだと思うんすよね。まあ、確かに読んでいる側からするとー、主人公が負けるってのは見てて気持ちが良くないので、初見殺しを無くすためだとか理由があると思うんすよね。ただ、実際に戦っててそれをやる貴方はどれだけ頭悪いんすかね」


やつは今目の前で起きたことが、まだ理解しきれていないようだ。


「そ……そんなぁ! ボクちゃんのゴーレムはこの世界のあらゆる……あっ! 」


ようやくやつは理解したようだ。


「えっと、僕が勇者って知ってるなら〜、異世界から来たということも知ってたと思うんすよね。それなのにも関わらず自分のタネ明かすって、へへへ。まあ、僕の知り合いにもデブで性格の悪くて頭の悪い死んだ魚の目をしたおっさんがいるんすけど、貴方彼より頭悪いっすよ」


「そ……ん、な」


そう言って、やつは真っ二つに割れた。

どうやらゴーレムが真っ二つになると召喚者である者も同じ影響を受けるようだ。


「さて、3階行きますか」


剣士と魔術師の2人に尊敬の眼差しを向けられながら階段を上っていく。



「私こそが、魔王様を守る盾と矛。勇者よ、魔王様の所へは決して通さぬぞ」


目の前にいる3階の番人はどうやら竜みたいだ。

さっきまでのヤツらも相当強かったんだろうが、コイツからは桁違いの気迫オーラを感じる。


「チッ、全くよ〜。剣士さんったら喋っている最中に切ってきやがるから流石の俺様もビックリしちまったぜ。驚かせんなよな」


そう言って背後から現れたのは、1階で剣士が切り伏せたはずのやつだった。

綺麗に切られてたはずなのに、切断面が全く見受けられない。


「あ、俺様不死族ゾンビなんだぁ、だから死なないんだぜ? すげぇだろ」


「また貴様は、長々と喋っていたら切られたのか、不死ゆえにその警戒を怠る癖、あれほど直せと言ったのに」


と、竜に飽きられている。

あの不死族は普段から何かとやらかしていたらしい。


「さっきは俺様、何も出来なかったからな。今度は切られる前にいくぜ?不死者の行進アンデッド・サーカス!」


突如として、ヤツの周囲にスケルトンの軍団が現れた。

数にして、およそ数百くらいか。


「なっ! こんな数、どうやって対処しろと……」


と、嘆いている剣士と魔術師をよそに、僕は言う。


「あっ、じゃあ竜の方は僕が倒すので2人は不死族の方をよろしくお願いしまーす」


後ろからは「えっ」などの声が聞こえた気がしたが。

僕は彼らの返事を聞く間もなく竜へと対峙する。


「ほう、いかに伝説の勇者といえど、竜族の長老である我に1人で挑むのは、無謀とも言えるのではないか? 慢心するでないぞ、人間」


「あのー、竜族の長老だかなんだか知らないっすけど、竜退治ってやっぱり勇者の仕事なんすよね、だから……」


そして、僕は剣を構える。


「大人しく、斬られてもらっていいすか?」


次の瞬間、激しい光を纏った斬撃が鋭い剣筋から放たれる。


「むぐぅ!? 流石勇者というべきか、これほどの斬撃を喰らったのは流石の我でも初めてだ」


直後、竜が大きく口を開いてえる。


「だが、コレを喰らって生き延びた人間は存在しない、勇者の貴様は何発耐えられるかな? 竜の雄叫びドラゴンブレス


そう言い放った瞬間、大きく開いた竜の口からは、超高密度のエネルギーが放たれていた。


なるほど、確かにこれを喰らってまともな人間なら生き延びることは不可能だろう。

だが、僕は勇者だ。


これくらい、弾き返せる!


超高速瞬きマインズ・アイ!」


僕は、超高速で目をパチパチさせることにより、その風圧で竜のブレスを弾き返した。


竜は、その様子を見て驚いていた。


「なぬ!? 我のブレスを弾くとはな、流石勇者! 誉めてやろうぞ」


「そろそろ、ダルくなってきたんで終わりにしていいすか?」


僕は、再び剣を構える。

だがしかし、今度は両手で。


so letter それって an not あなた no can sword 感想 death です you nameよね


瞬間、両手で振った剣によって竜の体は真っ二つに割れていた。


「やるな、人間よ……いや勇者よ。だが、貴様ごとき到底魔王様の力には遠く及ばぬ……せいぜい足掻くが……いい……」


竜は最後にそう言って、事切れた。


「そっちはどうすか?」


そう言って僕は後ろを見る。

どうやら、彼らも終わったようだ。


「ハァハァ……クソ! なんで俺がただの人族ごときにやられるんだ!」


そう喚き散らかしてるのは、四肢を切り裂かれ、胴と首も繋がっておらず、結界に惨めな姿で閉じ込められている不死族の男だ。


「なんか、不死族が人族にやられないっていうデータあるんすか」


「勇者様! コイツはもう、封印しました! 早く最上階へと行きましょう!」


「あ、はーい」


こうして3階での戦いを終えた僕達は、いよいよラスボスの所へと向かっていく。

途中、後ろで罵詈雑言が聞こえてきたが無視した。



最上階へと到達した。

ここまでは言うほど苦労してはいなかったが、いよいよ魔王だ。

どれほど手強い敵なのだろうか。


「貴様が我を倒すべく、異界より召喚されし勇者か」


物凄く低い声で、この世のものとは思えない程の邪悪さをその身から漂わせながら、禍々しい玉座に座る者はそう言う。


「あっ、はいそうですね。僕が異世界人というか、救世主というか、まあ勇者なんすけど」


僕が言葉を返したのと同時に、魔王は玉座から立った。


「もはやこの世界には我の敵などおらん。だから異界より召喚されし勇者の貴様と戦うことを待ち望んでいたのだ。我は元はこの国の王であり、世界最強と言われるほどの武の才能を持っていたが、その強さゆえに退屈していたのだ」


「だからって、退屈だから世界を滅ぼすというのか! 貴様は!」


そう言って、魔術師はローブを脱ぎ捨てる。

そこには、茶色い髪を魔王城を吹き抜ける風になびかせながら、覚悟を決めた剣士に似た顔をした好青年が立っていた。


「父さん……いや、魔王! 俺はここで、勇者様と共に貴様を倒す!」


続いて、剣士も言う。


「やるぞ! 兄さん! 俺らでコイツを終わらせるんだ! お前は心優しい父をたぶらかし、その体を乗っ取った! 俺は……いや、俺たちは貴様を許さない!」


熱くなっている2人とは、正反対に冷静な僕は魔王に向けて言い放つ。


「あのー、なんだろう……世界滅ぼすのやめてもらっていいすか?」


そう言った瞬間、魔術師と剣士の2人が魔王に向かって走り出す。


「せいぜい、余を楽しませてくれ」


魔王が剣士と魔術師にそれぞれの手を向ける。


「我が剣、彼の者を貫け。我が盾、我を守りたまえ」


魔王が言うと、巨大な剣と盾が両手に収まる。


「なに!?」と剣士と魔術師の2人は驚きながら、その勢いを保ったまま魔王へと走る。


「大罪人の身を灼き尽くす、地獄の業火よ! その炎で全てを薙ぎ払え!灼熱地獄ヘルファイアー!」


詠唱の直後、太陽の熱と言われても納得するほどの凄まじい炎が魔王に向かって放たれる。


「ほう、いい魔法だ。だが、それも我の盾の前では無意味よ」


そう言って魔王は左手の盾で炎をかき消した。


「嘘だろ…」


絶望する魔術師。

恐らく、炎魔法の中でも最上級だったのだろう、それを盾に当てられただけで消えたのだ、無理もない。


「この盾はあらゆる魔術を吸収する鉱石で出来ている、放出することも出来るぞ」


盾の真ん中にある紋様が光を発す。

瞬間先程魔術師が放った炎と同じかそれ以上の物が盾から出てくる。


この炎に巻き込まれて、剣士と魔術師は倒れてしまった。

僕を除いて。


「フン、所詮は脆弱な人間よ。だがやはり勇者、貴様は違うな」


「へへへ、熱いっすねー。なんだろう、本気出させるの、やめてもらっていいすか」


僕は剣を鞘に戻して、拳を構える。

深呼吸をし、精神を集中させる。


「シャゾウ拳!!」


極限の集中により、研ぎ澄まされた拳は魔王の盾を砕く。


「ほう、我の盾をも砕く拳。流石だ、では我が剣を喰らえ」


魔王が右手の剣を振り抜き、その衝撃波が飛んでくる。

僕は衝撃波をもろに喰らう。


「不快感を覚えた自分に驚いたんだよね」


「我の剣撃をも耐えるか! 素晴らしいぞ」


満面の笑みを浮かべる魔王とは裏腹に、僕は物凄く憤っている。


ブラフは嘘であると見抜けない人に戦いは難しいっすよ?」


直後、魔王の体を剣が貫通した。


「な……んだ、と? 貴様は衝撃波を喰らって苦しんでいたはず……グハッ……」


魔王が吐血しながらそう言う。


「あのー、僕の彼女というか奥さんというか細君というか、まあ嫁なんすけど、もとの世界で待ってるんすよ。なので、早く帰りたいなーなんて思ったりしたんすよね」


僕は頭をグシャグシャと掻きむしりながら、照れくさく言う。


「妻のために、か……勇者ピロユキよ。楽しかったぞ……」


最後の言葉を言い、魔王は塵となって風に飛ばされていった。


その後、僕は炎で丸焦げになった剣士と魔術師の2人を治癒魔術で回復させ、王城へと帰った。


「おお! 勇者ピロユキ! 魔王を倒した英雄よ! 万歳!」


国民から王にまで様々な人物に称えられた。


こうして、魔王を倒し、王城で勲章や財宝などを貰い、ようやく元の世界へと帰るとなった日。


「勇者様! 我が父を邪悪なる呪いから救っていただき、誠にありがとうございます! 感謝してもしきれないです」


と、剣士と魔術師の兄弟に言われた。


魔王の所有していた、魔道具の中に、異世界へとテレポート出来るものがあり、それを使って帰るのだ。


「へへへ、なんだかんだで、オイラ楽しかったです。それじゃあ、みなさんお疲れ様でーす」


そう言って魔道具の中へと入っていく、どんどん手を振る人達の影が遠のいていく。



意識が……。






「―――さん。12000円スパチャありがとうございまーす。えー、『ぴろゆきさんは、異世界転生、転移したらどうしたいですか?僕は無双したいです』はい、えーとですね、僕はなんだかんだで楽しむと思いまーす。」

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