第59話 敵は強大
第二次インド洋海戦のときと同様、俺は第二艦隊旗艦である戦艦「武蔵」に乗り込み三度目となるミッドウェーの戦いに臨んでいた。
第一次ミッドウェー海戦のときとは違い、「武蔵」や「大和」を基幹とする第二艦隊が前衛、さらにその後方に四群に分かれた空母主体の第三艦隊が後続するという、つまりは水上打撃部隊の後方に機動部隊を配するというオーソドックスな配置だ。
俺がこの時代に降り立ってからすでに一年余りが経過していたが、世界情勢は俺が知るそれとは大きく異なっていた。
欧州ではこの頃、凋落の一途をたどっているはずだったドイツは、だがしかしいまだ余力を残し、無条件降伏間近だったイタリアもまた元気いっぱいだ。
そのイタリアはインド洋を失ったことで衰退の一途をたどる英国に代わり、地中海とインド洋にその覇を掲げている。
英国と同様、ソ連もまた苦しい。
英国がインド洋の制海権を失ったことでペルシャ回廊を断ち切られ、さらに北海経由の援ソ船団が途絶したことでこちらも苦境に陥っている。
そんな連合国各国が苦しむ中、ひとり気を吐いているのが米国だった。
戦前に準備した七隻の正規空母のすべてを沈められ、また第二次ミッドウェー海戦では多数の新鋭戦艦を失ったのにもかかわらず、その戦力は従来を凌ぐまでに充実している。
俺の記憶が正しければ、この戦いが始まった時点で米国はすでに「エセックス」級空母を五隻、それに「インデペンデンス」級空母を七隻竣工させているはずだった。
そのうち「エセックス」級空母は四隻、「インデペンデンス」級空母のほうは四乃至五隻がすでに慣熟訓練を終えて実戦投入が可能となっているはずだ。
あるいは、史実よりも遥かに多くの空母を失ったことで新鋭空母の就役ペースは早まっているかもしれないから戦力見積もりは多めにしておいたほうが無難だろう。
戦艦のほうは「サウスダコタ」級の生き残りの「マサチューセッツ」と「アラバマ」、それに今年前半に就役した「アイオワ」と「ニュージャージー」といった新鋭戦艦のいずれもが太平洋側に進出していることが分かっている。
特に機動力に優れた「アイオワ」と「ニュージャージー」は戦場の攪乱要因として空母に次いで警戒を要するだろう。
四隻の新型戦艦以外に複数の旧式戦艦の存在も確認されている。
その中には真珠湾攻撃でダメージを被った艦も複数含まれているはずだ。
そして、これら太平洋艦隊に配備された艦のほとんどがミッドウェー防衛のために出張ってくると予想されている。
帝国海軍の情報部門は空母や戦艦といった主力艦が二〇隻近く、巡洋艦や駆逐艦といった補助艦艇が七〇隻程度と見積もっているが、俺もその見立てに異存は無い。
米機動部隊の艦上機は五〇〇機以上、それにミッドウェー基地に展開する陸上機を含めればその数は七〇〇乃至七五〇機、下手をすれば八〇〇機近くに及ぶかもしれない。
しかも、それら機体は旧来のF4FやF2Aといったものではなく、そのいずれもが新鋭機で固められているはずだ。
水上打撃艦艇で、さらに航空機の数でこちらを明らかに上回る戦力を擁する米軍は自信満々に手ぐすね引いて第二艦隊と第三艦隊を待ち構えていることだろう。
しかも、ここは敵のホームグラウンドであり、魚雷の信管不良を克服した米潜水艦の存在も脅威だ。
史実でも装甲空母の「大鳳」や「信濃」、それに高速空母の「翔鶴」や「雲龍」が敵潜水艦によって無念の最期を遂げている。
実際、これまで第二艦隊と第三艦隊は潜水艦による被害こそ無いものの、それでも連中が発信したと思しき不信電波を複数傍受しており、それら艦の撃滅には成功していない。
少なくとも情報戦においてはこれまでのところ米潜水艦に軍配が挙がっていることは間違いない。
いずれにせよ、米軍は間違いなく投入可能な戦力をここミッドウェー近傍海域に集中しているはず。
戦いはこれまでになく激しいものになるはずだった。
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