第三次ミッドウェー海戦
第57話 昭和一八年前半
昭和一八年二月に生起した第二次インド洋海戦は帝国海軍の完勝に終わった。
東洋艦隊を文字通り殲滅し、三隻の空母と七隻の戦艦、それに三〇隻近い巡洋艦や駆逐艦を撃沈せしめたのだ。
三隻の空母はそのいずれもが英海軍の虎の子である「イラストリアス」級装甲空母であり、戦艦のうちの二隻はかつてのビッグセブンの一角である四〇センチ砲搭載戦艦の「ネルソン」と「ロドネー」だ。
これらを一挙に失った英海軍の狼狽ぶりはいかほどのものだっただろうか。
それら邪魔者がいなくなった後、帝国海軍は同海域で海上封鎖戦を展開。
広大なインド洋を制圧するのにそれなりの時日を要したものの、それでも連合艦隊がそのほぼ全戦力を投入したこともあって英印航路の遮断に成功する。
東洋艦隊の壊滅は同時にヒトラー総統の目を地中海や中東に向けさせる端緒にもなったらしい。
彼は引きこもりのイタリア海軍の尻を叩き、自らもまたブラウ作戦の中止に伴って余裕が出来たドイツ空軍を地中海方面に投入、あっさりとマルタ島を陥とし同海の東半分の覇権を握った。
このことで、エジプトの英軍は完全に補給を断たれ同戦域からの撤退を余儀なくされる。
さらに勢いに乗るドイツ軍はスエズ運河に歩を進め同運河の打通にも成功、欧日航路を現実のものとした。
この一連の戦いによって英国をはじめとした連合国軍は極めて厳しい状況に陥ったが、一方で米国に時間の猶予を与えることにもなった。
帝国海軍が西へ戦力を集中しているうちに米国はその工業力を遺憾なく発揮、複数の「エセックス」級正規空母や「インデペンデンス」級軽空母、それに大量の巡洋艦や駆逐艦を続々と就役させている。
日本にとって誤算だったのは、豪州が意外に強気だったことだ。
東西の守り神ともいうべき太平洋艦隊と東洋艦隊が壊滅したのにもかかわらず、日本からの講和の申し入れを同国は当初、文字通り一蹴していた。
それならばとばかりに連合艦隊は出撃する。
空母一一隻、戦艦八隻を基幹とする大艦隊がブリスベンを襲ったのは昭和一八年六月半ばのことだ。
日本軍は米潜水艦基地のあるブリスベンをインフラごと破壊すると通告したが、それは街そのものを焼野原に変えるという宣言でもある。
そして、それがただの脅しではないことは獰猛な空母艦上機隊の空襲と戦艦部隊による徹底した艦砲射撃の実演によって証明された。
ブリスベンが破壊されたこと、さらにそれに伴って許容範囲を大きく超える難民が出たことで豪政府は恐慌状態に陥った。
その機を逃さず、日本は最大都市シドニーへの攻撃宣言を行う。
この時点で豪政府が頼みとする太平洋艦隊は空母の数こそそろいつつあったが、しかしいずれも訓練不足で実戦に耐えられるレベルではなく、東洋艦隊に至っては跡形も無く消えていた。
一方、豪艦隊はそのほとんどが健在なものの、最大戦力が重巡洋艦ではまったくと言っていいほどにお話にならない。
豪政府は結局、他国との約束よりも自国民の安全を優先、日本との単独講和に踏み切った。
そのことで、ようやく西と南からの脅威を断ち切ることが出来た帝国海軍は次に本命を叩くべく東へとその目を向ける。
目的は復活しつつある米艦隊の撃滅。
特に今年に入って続々と就役が始まった「エセックス」級空母の第一陣、それに「インデペンデンス」級空母の半数は確実に刈り取っておきたい。
これらを放置しておくと、太平洋の主導権は容易に米軍の手に渡ってしまう。
そして昭和一八年一〇月、連合艦隊の艨艟群はみたびミッドウェーを叩くべく抜錨する。
この時期となったのは米空母の数がそれなりに揃っていること、そして新型のF6Fヘルキャット戦闘機の配備が始まっているからだ。
明らかに零戦に勝る性能を持つに至った新鋭戦闘機、そのF6Fを手にした米艦隊は連合艦隊の挑戦から逃げることは無いはずだった。
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