転生したらいきなり艦隊決戦
蒼 飛雲
転生したらいきなり艦隊決戦
いきなりミッドウェー海戦
第1話 地味女神
すでに正午近くだというのにもかかわらず周囲は異様に暗い。
上空は黒く厚い雲に覆われ、地上に降り注ぐ太陽光線はごくわずかだ。
激しく降り続ける雨のせいか、歩く人の姿もまばらで普段からは信じられないくらいに街の中は閑散としている。
そんな鬱陶しい梅雨空の下ではあったが、それでも俺の気分は明るい。
地元の書店で定期購読している艦船情報誌「世界の艦艇」と軍事情報誌「角」の発売日だったからだ。
だが、それ以上嬉しかったのが、新牧俊夫先生と君嶋奈知先生共作の「旭日の戦艦空母」を手に入れることが出来たことだった。
本来であれば、発売日はあさってだったはずだから、あるいは手違いがあって店側がフライング販売したのかもしれない。
だが、理由はなんであれ俺は迷うことなく即買いする。
これで、今日一日は読書三昧が出来る。
晴耕雨読ではないが、雨の日は読書に限る。
俺は喜びに胸を膨らませ、いつもの交差点を横切る。
土砂降りで視界は悪く、そのうえ強烈な雨音は周囲の雑音を完全に遮断していた。
だから、俺はその存在に寸前まで気づかずにいた。
そして、それに気づいた時にはすでに回避不能だった。
雨のすぐ向こう、ハンドルに突っ伏している運転手の姿に俺は心中で罵声を浴びせる。
その数瞬後、俺の意識は闇の彼方へと吹っ飛んでいた。
「ここはどこだ?」
ライトノベルなどでお決まりの文句が俺の口をついて出る。
我ながら芸の無い第一声だと思ったが、それはここが浮世離れあるいは現実離れした場所だったからだ。
白色とも黄色ともいえない淡い光に満たされたその空間は、アニメで見た転生ラノベの女神の世界そのものだ。
「まあ、実際には女神なんていないけどな」
あまり信心深くない俺はそうつぶやき、周囲を観察しつつ記憶のサルベージを開始する。
そして、はたと思い出す。
俺は土砂降りの雨の中、本屋にいって欲しかった本を手にし、そして意気揚々と家路を急いでいたはずだ。
そして、その途中で大きな車、おそらくはトラックにはねられて・・・・・・
「ようやく気づきましたか」
柔らかでいて、それでいて厳かさも感じさせる女性の声に俺は思わず振り返る。
そこには黒い髪と黒い瞳、それに白い布に包まれた起伏に乏しいお姉さんがいた。
特に色白といったわけでもなく、その造りは典型的な日本人の顔だ。
顔はクラスで女子が二〇人いたら一〇番手か一一番手といったあたりか。
スタイルはまあ、あまり言うと某方面がうるさいから黙っておく。
「あなたは女神様? 俺、ひょっとして死んだ?」
若干の残念成分を含んだ俺の言葉に、しかし目の前の女性は少しばかり悲しげにうなずく。
彼女のあっさり肯定に、俺は安堵するとともに同じくらい落胆する。
俺が知る転生を司る女神と言えば、青髪かそうでなければ金髪バインバインのお姉さんのはずだ。
中には痴女じゃないかと疑わせるような布面積の小さい衣装をまとったサービス精神旺盛な者までいる。
だが、目の前の女神は顔は十人並み、ボディラインはコーナリング無用のストレートばかりでしかも露出はほとんど無い。
あえて言おう。
詐欺であると。
自分が死んだこと以上にショックかもしれない。
こんな女神が相手ではまず間違いなくハーレム展開は訪れないだろう。
美人女神の導きで異世界に行き、そこで美人美少女美幼女に囲まれる展開というのはしょせんはラノベの世界だけの話なのだろう。
そんな俺の感情を読み取ったのだろうか。
女神は悲しげなそれから一転、怒気を含んだ笑顔へと変わる。
そして、すぐにその笑顔の質を営業スマイルへと変換するのがなぜか俺にはわかった。
「ご自身が死んだことにあまりショックを受けていないご様子。剛毅なのはなによりです中島隼さん。長いのでこれからはジュンさんと呼ばせてもらいますね。
あっ、そうそう。申し遅れました。私は人事局転生課のベティ・ワンショットライターと申します。ベティ様あるいは単に女神様とお呼びいただいても結構です」
自己紹介するベティの口調は役所の窓口の事務的なそれとよく似ているが、話の中身はたいそうふざけたものだ。
「自分で自分のことを様付けで呼ぶよう要求するんですか? まあ、そこはいいです。それよりも、人事局転生課の女神様ということは俺の情報はすべて知っているってことですね」
「もちろん、その人がどういう人生を歩んできたかは人事担当者として当然把握しております。説明義務違反を回避するために先にジュンさんの死因からお話ししますね。人事局転生課って天界の役所の中でも法務部に次いでコンプラに煩いんですよ」
ベティはそう言って話を続けてもいいかと尋ねてくる。
今のところ俺の方から話すことはほとんど無いので首肯する。
「ジュンさんはトラックにはねられて死亡しました。相手の運転手は居眠り運転だったようですね。で、その二日後ですが、ジュンさんの葬儀がご家族によってしめやかに執り行われています。
それとともに、ジュンさんの恥ずかしいコレクションは葬儀後にすべてご家族の手によって焼却処分されました。なので諸々ご安心ください」
「俺の恥ずかしいコレクションって言うと・・・・・・」
青ざめる俺にベティは艶然とした顔を向けて言い放つ。
「ジュンさんはバイトで得た金のほとんどを艦艇をはじめとした軍事関連資料かあるいはエロアニメにつぎ込んでおられましたよねえ。もちろん恥ずかしいコレクションというのはエロアニメのほうを指しています。一応確認のために私も拝見しましたが、いわゆる敗北ヒロイン快楽堕ちと呼ばれる作品ばかりでしたね。
で、何ですか? あれは?
魔法少女が触手に辱められたり姫騎士がオークにナニされたり、あるいは現代の女忍者がゴブリンにあれこれされたりと、もうめちゃくちゃじゃないですか」
「何で女神様が俺のコレクションを確認する必要があるんだ?! それに、そんなことはどうでもいいだろう!
男子は誰もが人に言えない性癖を抱えながら、その欲望を押し殺して慎ましく生きてるんだよ!」
顔を赤くした俺の抗議をだがしかしベティは華麗にスルー、時間が惜しいのでと言って勝手に先を続ける。
「コレクションの話はさておきジュンさんの人事評価の話をします。
えーと、ジュンさんは浪人をしてでも某Fランク大学を受験しようとする旺盛な学習意欲がまず長所として挙げられますね。それと、最初の受験も残念でした。
あと三点あれば合格出来てましたよ。 Almost!」
「おいベティ、お前喧嘩売ってんのか? 確かに○○大学はそんなに頭の良いやつが行く学校じゃないけど、一方で就職率は意外に高いんだぞ」
俺はベティを睨みつけるが、彼女はそんな俺の態度にも呼び捨てにされたことにも特に気にした様子も見せずに先を続ける。
「変態を極めた学生さんが多い学校なのでそれなりに需要があるのでしょうね。他のところでは決して得ることの無い貴重な変態もとい人材の宝庫ですから、あの大学は。あっ、だからあなたも一浪してでもそこの大学を目指しておられたのですね」
神経が太いのだろうか、あるいは単におバカさんなのか。
女神を自称する割には平気で他人の神経を逆なでしてくる。
「で、話を戻します。私としましては個人の嗜好や内心の自由は尊重すべきと考えますし、実行さえしなければそれは犯罪ではありませんからそれをとやかく言うつもりはありません。
でも、ジュンさんのように学習意欲はともかくスケベな艦オタというのはいかがなものでしょうか。艦オタがその生涯を童貞で終える確率は他の一般男性に比べて圧倒的に高いという統計も出ておりますし、それにスケベが加わればほぼ絶望的かとも思えるのです」
「そんな統計あんの? 確かに艦オタに独身者が多いのは薄々感じてはいたけど」
「私が受け持った範囲では架空戦記ファンと艦オタの童貞率は異様に高いですね。それに比べればハゲやデブは全然マシです」
断言するベティに俺は怒りを忘れて黙り込んでしまう。
やはり架空戦記ファンや艦オタはハゲやデブ以上に女にはもてないのか、と。
だが、そんなに俺に忖度無用とばかりにベティが畳み掛けてくる。
「で、ここからが本題です。ジュンさんは異世界への転生を希望しますか。
それともこの世界で生まれ変わってやり直しますか?」
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