第九話 服を貰いました
「ふぁ〜〜」
本を読んでからどれくらいの時間が経ったでしょう。よく分からない歴史の本を三冊読んだところでうとうとし始めた頃部屋のドアをトントンと叩く音が聞こえてきました。
「リンリンちゃん。もう暗くなったからそろそろ夕飯食べよウサ」
「夕飯!」
夕飯というパワーワードに私の眠気は空の彼方へ吹っ飛びました。
私はベッドから飛び起きてドアを開けます。
「早く行きましょう!」
「リンリンちゃん……」
「何固まってるのですか! 夕飯を食べに食堂に行きますよ」
「待ってウサ!」
「どうしてですか! また私を置いて一人で食堂に――」
「違うの。リンリンちゃん服! 服はどうしたウサ!」
「へ? 服……!?」
セイントちゃんに言われてようやく私はタオル一枚だったことに気が付きます。
「あ、ああああーーー! 忘れてました!」
部屋の中に戻って乾かしていた服を触ります。
「よかった〜。乾いてます」
日当たりの良い場所に干していたのが幸いして服も下着も乾いてました。
私はタオルを脱いで服を着ましたがドアが開いていたのでセイントちゃんに裸を見られました。
私は全然気にしませんでしたがセイントちゃんの顔はどんどん赤くなって。
「ご、ごめんなさいウサああああああ!」
逃げるように部屋の前からいなくなりました。すると入れ替わるように。
「何事ですか!?」
宿の女将さんが私の部屋に来ました。
私が理由を説明すると。
「そうでしたか。着替える時は他のお客様もおりますので、お客様の安全の為にもドアは閉めてくださいね」
「すみません」
「いえいえ。それと服をお持ちでないのでしたらこの宿の向かいが服屋となっておりますのでそちらで購入されてはいかがでしょう」
「そうですね。でも私お金持ってませんし……」
「あらそうなの? じゃあお客様がよろしいのでしたら私の娘のお古でしたら無料で差し上げますよ」
「ほんとですか!? 是非譲ってください!」
「そうですか。それならついてきてください」
女将さんの案内で私は一階にある女将さん達の住んでる部屋にお邪魔しました。
そこにはこの宿の主人とお爺さんがいて私が会釈すると向こうも会釈してくれました。
女将さんは奥にあるドアを開いて中に入ります。
「この部屋よ」
「ここはどんな部屋なんですか?」
「ここが娘の部屋だったのよ。
今は王国の中心部に働きに行ってるけどね」
「中心部に。寂しくはないのですか?」
「寂しくないわよ。手紙がよく届くから。その手紙によると王国でね――」
女将さんによる娘さん話が始まりました。正直長くなりそうでやめて欲しかったのですが、嬉しそうに話す女将さんの顔を見ていると私までなんだか嬉しくなってすっかり聞き入ってしまいました。
しばらく聞いていると。
くぅ〜。
「あらお腹が。それにもうこんな時間! お仕事残ってるのに。長い間話してごめんなさいね」
「いえ。私もお話を聞けてよかったです」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。私は仕事があるから戻るけど、服はあのタンスの中にあるから好きなだけ貰っていいからね」
「はい。ありがとうございます」
「いえいえ。じゃあね」
女将さんが部屋を出ていきました。私はタンスの中を開けます。中には私の身長と同じくらいのサイズの可愛らしい服がたくさんありました。
「これと、これと、これも可愛いですね」
貰う服を選んで指の中に入れた私は、セイントちゃんの待っている食堂へいきました。
「だいぶ遅くなったし、セイントちゃん怒ってるよね絶対……」
すぐ謝ろう。そう決断してセイントちゃんの座っていた席に行くと、セイントちゃんが私を見るなりいきなり席を立って。
「リンリンちゃんごめんウサ!」
「ええ!? 私こそごめんなさい!」
予想外の展開に私も謝ります。
「怒ってないウサ?」
「なんで私がセイントちゃんに怒らないといけないのですか」
「だって裸見ちゃったし……」
「そんなことで私は怒りませんよ。そんな事より私こそだいぶ待たせてしまってごめんなさい」
私は女将さんとのやりとりをセイントちゃんへ伝えました。
「そうだったウサか。私も別に怒ってないウサよ」
「よかったです」
「私はてっきり裸を見たからリンリンちゃん怒ってここに来るのが遅れたと思ってたウサ」
「それはありえませんよ」
「でも私は……」
セイントちゃんが口籠もります。何か嫌な思い出でも思い出したのでしょうか。私は落ち込むセイントちゃんへ。
「セイントちゃん。ご飯食べましょう」
「ご飯……」
くぅ〜。
私とセイントちゃんのお腹が同時に鳴りました。
「ほら、お腹すいてるようですし」
「リンリンちゃんもウサ。わかった、ご飯食べるウサ。すみませんウサ!」
「あ、はい」
セイントちゃんの前に立った店員のお姉さんはセイントちゃんを見てびっくりしてました。どうしたのでしょう?
私の疑問はすぐ解決します。セイントちゃんはメニューの端から端を指差しながら。
「ここに載ってるもの全部持ってきてウサ」
「昼にあんなに食べたのに。
……かしこまりました」
店員のお姉さんが厨房へ声をかけると、厨房は慌しくなります。
「セイントちゃん昼にもここのメニューにある料理全部食べたのですか?」
「うん。とっても美味しかったウサ」
「いいな〜。私も食べたかったな〜」
甘えるように声を出してお願いしてみます。
そしたらセイントちゃんの顔が真っ赤になって。
「すみませんウサ!」
「なんでしょう」
「私の注文2人前でお願いするウサ」
「2人前ですか!?
……か、かしこまりました!」
もう一度お姉さんが厨房へ戻ると一気に戦場のように慌ただしくなりました。
「セイントちゃん。ありがとうございます」
私は歓喜のあまりセイントちゃんに抱きつきます。
「〜〜〜。り、リンリンちゃんが喜んでくれるならいいウサ……私の分も全部食べられそうだし」
「『いいウサ』の後何か言いました?」
私が聞き返すとセイントちゃんは顔を赤らめたまま。
「なんでもないウサ!」
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