第七話 謎のお店と謎の店員さん

 虎の死骸を狼同様指輪の中に回収して、私とセイントちゃんは山を削って作られたトンネルを通りました。

 トンネルの先には――。


「着いたウサ」


「わぁ〜のどかな村ですね」


 周囲を山のくぼみに囲まれた地形の緑豊かな村がありました。


「セイントさんおかえりなさい。おや、そちらのお嬢さんは?」


「友達のリンリンちゃんウサ」


「初めまして。リンリンです」


「これはこれはご丁寧に。

 ワシは『ガラン』。村長兼この村の門番をしているんだ」


「村長さんなんですね。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 私はガランさんと握手しました。ガランさんの手はゴツゴツしててまるでお父様のようでした。


「リンリンちゃん。早く甘いもの食べに行こうウサ」


 セイントちゃんが私の服をぐいぐい引っ張ります。


「はいはい。ガランさん。それじゃあ」


「ああ。行ってらっしゃい」


「ほらほら早く〜」


 待ちきれないのかセイントちゃんが手を引っ張りました。ふふふ可愛い。

 入り口から村の大通りを歩いて10分。セイントちゃんがある家の前で立ち止まります。


「このお店ウサ」


「ここですか?」


 そこは周囲と同じ建物で見た感じだと普通の民家にしか見えません。


「入るウサ」


 カランコロン♪


「いらっしゃいませ〜♪」


「ええ!?」


 私は驚きました。

 何故ならその店員さんは全身もふもふしたぬいぐるみを着込んだ姿だったからです。

 それにお店の中もぬいぐるみばかりで私とセイントちゃんだけ違う世界に来たような感じがします。


「2名ウサ」


「どうぞこちらへ〜♪」


 手慣れたように店員さんへ人数を告げたセイントちゃん。対して私はキョロキョロしながら席に着きます。可愛いものばかりで目移りして正直落ち着きません。


「こちらメニューと『もふもふエキス』です〜♪」


 店員のお姉さん? がテーブルの上に謎の液体を置きました。その色は虹色にグラデーションがかかっておりどう見ても人が飲んではいけない気がします。


「あのー」


「はい〜♪」


「この液体? はなんですか?」


「『もふもふエキス』です〜♪」


「これって飲んでも大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ〜♪」


 お姉さん? はずいっと顔を近づけながら声高く伝えてきました。ですがぬいぐるみ越しなので表情がわかりません。


「それでは注文が決まりましたらお呼びしてくださいね〜♪」


 結局どんな飲み物かわからないままお姉さん? はカウンターの中へ消えました。


「セイントちゃん。この『もふもふエキス』とはなんですか?」


「『もふもふエキス』は『もふもふエキス』ウサ」


 セイントちゃんが虹色の液体を飲みます。


「プハッ! はぁはぁ美味しいウサ。はぁはぁ別に変な物は入ってないウサよ」


「えっと……」


 半分まで飲み終えたセイントちゃんが息を荒げながら『リンリンちゃんも飲んでウサ』と目で訴えてきましたが私は逃げるようにメニューを開きました。

 そこにはパフェやケーキ。それにパンケーキの絵が本物のように描かれてどれも美味しそうです。

 私がどれを食べようか悩んでいるとセイントちゃんが普段通りの呼吸に戻って。


「リンリンちゃんはどれを食べるウサ?」


「そうですね〜」


 甘い物大好きな私としてはここにあるスイーツを全部食べたいのですがそしたらセイントちゃんのお財布に悪いので自粛します。

 なんて思ってたのですが。


「悩むのならここのスイーツ全部注文するウサ?」


「全部!?」


「そうウサ。すみません!」


「なんでしょう〜♪」


「いつの間に!?」


 セイントちゃんが呼んだ途端に私の背後にお姉さん? は立ってました。


「ここに載っているスイーツ全部持ってきてウサ」


「全部ですね〜♪ かしこまりました〜♪」


 お姉さん? はまたカウンターの奥に消えました。一体どうやって私に気づかれずあそこから背後に移動したのでしょう? 不思議です。


「ここのスイーツ全部美味しいウサよ」


「セイントちゃんはこのお店によく来るのですか?」


「来るウサよ。ここの店主とは顔見知りなのウサ」


「そうなんですね」


「お待たせしました〜♪」


「うひゃっ!?」


 お姉さん? がいつの間にか山盛りの皿を持ちながらテーブルの横に立ってました。


「こちらが注文のスイーツです〜♪」


 次々とテーブルの上に置かれるスイーツの数々。


「それではごゆっくり〜♪」


 隙間なく完璧にスイーツを配置してお姉さん? はまたまたカウンターの奥に消えました。本当に何者なんでしょう。


「じゃあ食べよウサ」


「本当によかったのですか?」


「何がウサ?」


「何がって、スイーツ全部注文しちゃって、お金とか大丈夫なんですか?」


「なんだそんな心配だったウサか。大丈夫ウサ。私こう見えて結構お金は持ってるウサ」


 セイントちゃんがどこからか袋いっぱいのお金を取り出して見せてきました。


「セイントちゃんがそう言うなら」


 遠慮なく!


「リンリンちゃんどうしたウサ? まるで別人のようにキラキラした目になって――」


「それじゃあいただきますね!」


 そこから先、私はデザートを食べて、食べて、食べまくりました。


「り、リンリンちゃん……」


 10分後。


「ご馳走様です。

 はぁ〜とっても美味しかった〜」


「それは……よかった……ウサ」


 セイントちゃんは真っ白に燃え尽きてました。燃え尽きるほど美味しかったのでしょうか?


「こんなにスイーツを食べたのは久しぶりでした。これもセイントちゃんのおかげです。ありがとうございます」


「お礼だから……いい……ウサ」


 そう言ってヒラヒラ手を振ってますがやっぱり元気がありません。

 どうしたのでしょう? あんなにスイーツ食べたのに元気がないなんて……はっ!? もしかしてあの『もふもふエキス』を飲んだから!?


「まさか私が食べる前に全部食べてしまうなんてありえない。ありえないウサ……」


 ぶつぶつ何か呟いてますが聞こえません。

 あの元気だったセイントちゃんがまるで別人のようなるなんて、やっぱりあの『もふもふエキス』は飲まなくて正解でしたね。

 それよりもセイントちゃんどうしましょう。なんとか元気を出させてもらわないと。


「セイントちゃん元気だしてください!」


「元気……ウサ……」


「こちらサービスになりまーす〜♪」


「きゃっ!? いつの間に」


「むぐっ!」


 お姉さん? が気が付かなうちにテーブルのすぐ横にいてクレープをセイントの口に突っ込みました。


「もぐもぐ――このクレープとっても美味しいウサ!」


 さっきまで元気のなかったセイントちゃんがお姉さん? のおかげで元気を取り戻してくれました。


「元気になってよかったです」


「それでは〜♪」


「あっ」


 お礼を言う前に行っちゃたので私はカウンターに消えるお姉さん? に心の中でお礼をしました。


 お姉さん? ありがとうございました。(╹◡╹)

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