ひとりごと

平 遊

第1話 天才に凡人は理解できない

嫌味でもなんでもなく。

今の仕事に就いてからは特に、実感することが多いテーマ。


高校生の頃、ある体育教師が言っていた。


「私は学生時代、体育が苦手で落ちこぼれだった。だから、体育教師になろうと思った。自分ができなかった分、努力した分、できない人の気持ちが分かるから」


確かに、その教師の指導はとても分かりやすかったように思う。

できない生徒をバカにすることなんて、絶対にないし。

自分ができなかった分、その生徒が何故できないのか、どうすればできるようになるのか、が分かる教師だったから。


そして、今。


身近には、超難関な入社試験を突破して入社された、頭のよい方々がゴロゴロいる状況。

これ。

ただ単に業務を請け負っている他社の人間であるところの凡人にとっては、ものすごく、不運な状況とも言える。

何故なら。


彼らには、我々がなぜ理解できないか、ということが、理解できないから。

よって、彼らの説明は言葉足らずで、手順書は抜け漏れだらけ。

何度「我々に分かるような手順書を作成してください」と伝えても作成していただけないのは、彼らには、抜け漏れだらけの手順書で十分だからなのだろう。

きっと、頭の中に全て入っているから。


私は、今の仕事が嫌いだ。

もともと、苦手な分野で、小・中・高・大と、ずっと避けて通って来た分野の仕事。


「こんなもの使う仕事なんてしないから、勉強する必要なんて無い」


と、バッサリ切って捨てて来た分野の仕事に、何の因果か就いてしまった。

しかも、異動、という予想外の展開で。


異動後は本当に、いつ辞めようと、そればかり考えていた。

右も左も分からず、おまけに大嫌いな分野の仕事なんて。

それでも、何故だか未だに続いているのは、ひとえに周りの人達が驚くくらい良い人達だったから。良い人達過ぎて、辞めるタイミングを逸してしまっただけのこと。

仕事が嫌いなのは、相変わらず。


ただ、そのお陰か。

私の作成した手順書は、おおむね好評だ。

それは私が、【どこが分かりにくいのか。どこを間違えやすいのか。なぜそうしなければいけないのか】を重点的に記載しているからだと思う。

大嫌いで、大の苦手の仕事についての、私自身の経験を詰め込んだもの、とも言えるものだから。

小さなミスなんてしょっちゅうで、大きなミスも何度かしてしまっている。

よくこれでクビにならないな、と思うくらいの、大きなミスだったのに。

そのミスは、今後繰り返すことの無いよう、もちろん手順書には追記している。

自分の為にも。後に担当することになるであろう、後輩の為にも。


私が未だにここに居させられている理由は、もしかしたらこれなのかもしれない。

そんなことを思う、今日この頃。


そんな私にも、一応得意分野というものがある。

メールの文章を打つとか。

ミスをした時の、発注元へのお詫び文章の作成とか。

とりあえず、思ったことをそのまま打っているだけなのだが、


「どうやったらそんなに早くできるのか」


と問われても、答えに窮する訳です。

特に急いでいる訳でもなく、ただ、頭の中で考えた事をそのまま打っているだけなので。

こればっかりは、私も上手く説明できそうにない。

天才だなどとはもちろん思っていないけど、苦労して身に付けた技術でもないので。

なので、こう答えている。


「馴れだよ」


一番ずるい答えかもしれないな。

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