黒歴史を白く塗りつぶすために

エリー.ファー

黒歴史を白く塗りつぶすために

 私たちは間違えている。

 その多くは、きっと誰かの手によって作り出された。幾つかの嘘である。

 嘘を嘘であると見抜けない者たちにとって、間違えというものは一つの指針に見えてしまう。こんなにも悲しいことがあるだろうか。いや、ない。

 私たちは、無力である。

 歴史の前に立ち、それがどの方向に向かっていくのかもよく分かっていない。

 築き上げたものがどこまで通用するのか。それを幾つかの基準に照らし合わせている。

 右を向き、左を向く。躓き、立ち上がり、転び、体を起こす。

 繰り返す。七度目。

 北の方角から誰かが近づいてくる。

 風が鳴いている。音は美しい。口笛に近いだろうか。




 私たちは間違えてしまった。

 何もかもではない、特定のものだけである。

 久しく間違えていなかった。

 踏み外してはいなかった。

 実行こそ、すべてだ。

 動かなければ失敗もない。

 そう言い聞かせていると、失敗からなにも学べない。

 父親と仲良くないせいで、私は多くのことを失った。その代わりのようにチャンスは山のようにあった。

 一つを握って、そのまま手元に置いている。

 先は見えない。

 しかし。

 それがいいのだ。

 嘘のようだと思った。このまま自分の中に存在する黒歴史を白く塗りつぶさなければならない。

 間違いは正さなければならない。




 間違いは間違いのままで良いのだ。

 この風呂場で自殺するのも悪くない。

 叫び声が遠くで聞こえた。

 やめたほうがよかった。

 集団自殺なんて、情緒が余りにもないじゃないか。

 自殺がかっこいいいとかほざく、太宰や芥川とかあのあたりが問題なのだ。

 自殺なんて、ただの逃げでしかない。

 何を求めているのか。

 何かあると思っているのか。

 ただ、死にたいから死ぬのだ。

 何故、そこにロマンを求める。

 気持ち悪い。

 心底、気持ち悪い。

 誰が始めたのだろう。

 その自殺への中二病感。

 やめろ。

 本当に死ね。

 バカなんじゃないのか。

 そういう自殺じゃないんだよ。

 詰まってるんだ。中身の詰まった自殺なんだよ。こっちは。

 ファッション自殺と一緒にするな、クソゴミ。




 間違いはどこにある。

 すべて正して、この洞窟を明るくしなければならない。たぶん、線が切れてしまったのだろうとは思うが、今持っている修理道具でどうにかできるだろうか。

 もしかしたら。

 どこかで崩落したのかも。

 そうしたら、直ぐに戻るべきだ。

 二日前にも地震があったのだ。用心しなければならない。

 また、地震が起きたら。巻き込まれるかもしれない。そうして、ここが墓場になる。

 そうか。

 そういうことか。

 たとえ、仕事であったとして、最近地震が起きていたとして。

 これは自殺なのだ。

 私は寿命を消費して少しずつ死に近づいている。

 あぁ。

 そういうことだったのか。

 生きるとは、時間をかけた自殺なのだ。

 生きていなければ死ぬこともないのだ。生きているという意思が、結果的に死を最後に持ってきている。

 きっと、私はこの洞窟で死ぬことはないのだろう。おそらく普通に生きて、普通に死ぬのだ。だからこの発見が、この身に迫ってくることもない。

 けれど。

 だが。

 しかし。

 でも。

 私の命は、この洞窟で散った誰かの命よりも豊かになれたのだろうか。

 

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