第29話

「分かりました。では購入手続きの準備をいたしますので、少々お待ちください」


 そう言って原田さんは奥の方へ入っていった。


「5億円の豪邸って随分と思い切ったな」


 涼が選んだのは4階建てで、建物の大きさだけで300坪を超える超豪邸。写真だけでアホみたいデカいのが伝わってくる。


「そりゃあね。これくらい無いと足りないでしょ?」


 さも当然でしょ?という表情でこちらを見る。コイツ、馬鹿だな。


「そもそも管理は出来るのか?一人で住むんだろ?」


 下手したら掃除だけで一日が終わるんじゃないか?


「え?君もリンネ君も一緒に住むんだよ?」


 うん、本当に馬鹿だったわ。



「——ってわけなんだ」


「なるほど。リンネの話聞いてたか?」


 涼が言うには、集合しやすいように二人と隣接する区に住もうという話になっているのだから、いっそのこと一緒の家に住んだら楽なんじゃないかとのこと。


 そのため涼が決めた物件は23区内どころか東京都ですらなく、隣の神奈川県である。どうやら東京へのアクセスが良い関東のどこかという条件で家を探していたらしい。


 が、一緒の家に住んだらそもそもあの家から出て行く意味が無いだろ。


「ちゃんと聞いてたよ。お互いのプライバシーが守れるような造りになってれば良いんでしょ?ということでここ」


 涼は先程見ていた間取り図と扉の写真を3枚見せてきた。


「これは?」


「鍵付きの部屋だね。それもそこらのマンション並みにしっかりしたタイプだよ」


「なるほどな。ここにそれぞれ住めば問題ないってことか」


 鍵がちゃんと付いている上に、キッチンやトイレ、風呂まで何もかもが揃っており、それぞれがちゃんとした自宅として活用できるように設計されていた。


「うん。だからリンネの言っていることはキチンと守れていると思うよ」


 確かにこれならンネから文句が出ることは無いだろう。


「ただ、そういうことは先に言ってくれ」


 唐突に引っ越すぞと言われても心の準備が出来ていないのだ。


「まあまあ、引っ越しまでは3日はあるんだからさ、それまでに覚悟を決めてよ」


「分かったよ……」


 滅茶苦茶近いじゃねえか。人生でもそこそこ重要な選択を三日で決めさせるなよ。


 と言っても聞かないんだろうな。俺は半ば諦め、受け入れることにした。


 その後契約は涼に任せ、俺はリンネに今日の話を伝えた。


 すると、


『楽しそうだね!ナイス涼さん!』


 と非常に好評だった。どうやら俺のパーティでまともな人間は俺しかいないらしい。



「いやあ、良い買い物だったねえ!」


 たった今5億円という馬鹿でかい買い物をしたリンネは、まるで高級ブランド店で30万くらいのバッグを買ったくらいのノリで話してくる。


 なあ、金銭感覚狂うの早すぎないか?


「もう少し自制しろよ?」


 破産することは無いが、金が足りなくて一生モンスターを狩る羽目になるのはごめんだからな。


「大丈夫だって。財布事情はちゃんと分かっているから」


 どうにも信用ならない。


「あ、涼さんだ!!」


「本物だ、すごい!!話しかけに行こうよ!」


 そんな涼の事を心配していると、正面に居る女子高生らしき人が涼を見つけて舞い上がっていた。


「君達は私のファンなのかな?」


 それを見た涼は高校生が話しかける勇気を持つ前に話しかけていた。


「はい!いつも配信見てます!頑張ってください!」


「良かったら握手してもらえませんか?」


 どうやら涼に夢中で俺の事が見えていないらしい。


 言われてみれば涼は同性にモテそうなカッコいい系の美人だからな。冒険者として強い所も相まって好かれているのだろう。


 というか、アナリティクスでやけに女性比率が高くなっているなって思っていたがそういうことだったのか。


 冒険者として有名になったから女性も見てくれるようになったのだと思ったが、そういうことでは無かったらしい。


 長年の悩みだった圧倒的男率が改善されて喜んでいた俺がバカみたいだ。


「良いよ」


「きゃああ!ありがとうございます!」


「それじゃあ君も!」


「はいいい……」


 一人はかなり舞い上がっており、もう一人は幸せで思考がパンクしてしまっているようだ。


「そこまで喜ばれると私も嬉しいよ。二人が私に話しかけてくれた初めてのファンだし、記念に」


 おもむろに女子高生二人の背中に手を回し、同時に抱きしめた。


「!?!?!?!?!?」


「はあぁぁぁぁ……」


 おかしな反応を見せてはいるものの、二人とも随分と幸せそうだ。


「じゃあ、またね」


 もうよく分からないことになっている二人に優しく声を掛け、俺の所へ戻ってきた。


「私にもここまで熱狂的なファンが居るんだね。嬉しいよ」


「やけに慣れてるな」


 明らかにファンサに慣れすぎているのが気になって、正直涼に熱狂的なファンが居るとか、俺が悲しくもスルーされたことはどうでも良くなっていた。


「まあね。学生時代にああいう子は沢山いたから。流石に大人になってからはそんな子は居なかったけど」


「凄いなお前」


 あまりのレベルの違いにその言葉しか出てこなかった。


「周人君だってちゃんと女の子のファンは居るから。私みたいにね」


「居ねえよ。それに涼は少し違うだろ」


 お前はブーメラン使ってたから見ていただけだろ。


 何年表舞台で顔出してやってきたと思っているんだ、7年だぞ。


 それなのに街でファンの女性に声を掛けられたことなんて一度も無い。


 俺に男ファンしか付かないのは知っているよ。


 それからしばらく歩いて帰る最中、何人かに声を掛けられたが、女性は全て涼の方のファンだった。


 その分男は大半が俺のファンだったのだが、それはそれで少し傷ついた。


 まあ、FPS界隈は男ばっかだったもんな……


 多分男しか寄せ付けないようなノリが自然と身に付いているんだろう。きっとそうだ。


 一般受けするノリを身に付ければ女性ファンも出来るんだ。ただ、俺はそうしていないから居ないだけだ。きっとそうだ。


 俺はそう強く心に言い聞かせ、帰宅した。


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