第2話
後日、俺たちは一番低難易度であるF級ダンジョンの一つ、五反田ダンジョンにやってきた。
「さて、ダンジョン攻略者としての第一歩だね」
リンネはこの日の為に用意していたのか、初心者とは思えない完全装備だった。
「やたら気合入っているな」
一方の俺は金属バットにジャージと完全に草野球をしに来た人だ。
顔以外に鎧をまとった男と、そこら辺に居るような男。まるで俺が悪いことをして逮捕されているような組み合わせだった。
「そりゃあ楽しみだったから。AIMは違うの?」
どうやらリンネは一度ダンジョンに潜ってみたかったらしい。ラノベとか漫画が大好きって配信でよく言っていたものな。
「ダンジョンは仕事の敵だったから」
確かに心躍るものではあったけれど、自分の仕事を奪ってしまった存在だから意図的に情報を遮断していた。
「確かに。じゃあ入ろっか」
「そうだな」
俺たちはダンジョンの前に居る受付の人にダンジョン攻略の為の免許証を提示し、中に入った。
「すげえなここ」
目の前には室内のなのに青空が広がり、爽やかな風が吹いていた。そして明らかに天井が外から見た天井より高い。
「ダンジョンだからね。地球の常識が通じない未知の世界だから」
そんなことを言いながらリュックから何かを取り出し空に飛ばしていた。
「何だそれ?」
「これ?撮影用のカメラだよ」
「空飛んでいるけど」
ドローンみたいにプロペラが付いているのではなく、蝙蝠のような羽を羽ばたかせて宙に浮かんでいた。
「ダンジョン産のアイテムを使って作られたんだって。カメラで設定すると少し遠くから僕達を撮影してくれるよ」
「ダンジョンすげえな」
確かにこれはゲームが衰退するな。
「ほらAIMの分も」
リンネはもう一つカメラを取り出し、俺の方へ飛ばしてくれた。
「助かる。ってかこれ動画に出すのか?」
いくら知名度はあるとはいえ、最低級のダンジョン攻略に需要があるとは思えないんだが。
「一応記念にね。僕達は今後こう生きていくよって説明にもなるから。ちなみにこれ生配信ね」
「やったなリンネ」
スマホをポケットから取り出すと、俺とリンネの配信が始まっていた。まあ今後はダンジョン攻略の配信をするだろうから構わないか。
「敵だ」
そんな会話をしていると、リンネがモンスターに気付いた。
「アレモンスターなのか」
どう見ても可愛らしい兎にしか見えないが、アレもモンスターなのだろう。
「『ウィニーラビット』って言って日本のダンジョンの中では最弱のモンスターの一体らしい」
「とりあえず倒してみるか」
最弱ということもあり、俺たちはあまり深く考えずに近づいた。距離5mくらいになった時に、兎は俺たちに気付いた。
「飛び掛かってくるよ!」
兎は逃げることなく俺たちに飛び掛かってきた。俺はそれを防ぐためにバットを振り被った。
すると、見事に直撃し綺麗に飛んでいった。
「ナイスヒット」
一発で終わってしまったので何もすることが無かったリンネが労いの言葉を掛けてきた。
「当然。俺だからな」
野球はやったことが無いのでほぼほぼまぐれだが、配信なのでそう強がっておく。
「ステータスが生まれたと思うけど、僕が手に入れるまで待っていて」
「分かった。死体はどうするんだ?」
「持ち運ぶのが面倒だからそのままにしておいて。ゴミとか死体は10分くらいしたら勝手にダンジョンが吸収するようになっているから」
「そうなのか」
何とも便利なものだ。うちにもその機能欲しいな。
俺たちは次の兎を探すべく、場所を移動した。
「これで終わりっと」
リンネは持っていた剣で兎を切り殺し、無事ステータスを獲得した。
「じゃあステータスを見てみるか」
玉森周人 レベル1
ジョブ:
力 10
防御 10
魔力 10/10
魔力耐性 10
俊敏 10
器用 10
命中 10
ステータスポイント 15
スキル
俺は本名以外の書いてある部分を居るか分からない視聴者の為に読み上げた。
「僕も同じだった。基本的に初期のステータスは同じなんだろうね」
運動をそこまでしていないこいつとエイムの安定のために鍛えている俺のステータスが一緒なのは釈然としないが、これから上がるステータスと比べれば些事なのだろう。
「ジョブってなんだ?」
それよりも空欄になっているジョブの部分が気になった。
「これはOPEXでいうキャラに部分だね。今から選ぼうか」
リンネはリュックから本を取り出した。その名も『ジョブ大全』。
デジタル化が進んでいる中で攻略本とかいう何ともアナログな物を。
敵がいないことを確認し、俺とリンネは地面に座り、読み始めた。
「進化とかもするのにめちゃくちゃ種類があるんだな」
まんまOPEXくらいの数かと思っていたが、スマシスの最新作のキャラ数位あった。
「僕は決めたよ」
色々と悩んでいると、リンネは5分くらいであっさりと決めてしまった。昨日のうちに選び終えていたのだろう。
今後変えるのは至難の業らしいので一生を左右するかなり重要な場面だ。ちゃんと吟味しなければ。
80近くあるキャラを見比べていると、とあるジョブを見つけた。
「決めた」
「じゃあ発表しようか。僕は『ガンナー』。やっぱりFPSプレイヤーだからね」
「プロのくせにエイム力皆無だったお前がやっていけるのか?」
正直たまに遊んでいた配信者とかの方がエイム良かったぞ。
「僕の手にかかれば、どんなジョブでも最強だからね。それより、AIMは何にしたの?やっぱり『ガンナー』?」
確かにFPSのプロプレイヤーだからその選択が一番理想的と考えるかもしれない。
「いや、俺は『狩人』だ」
『狩人』。それは隠密をしつつ、弓や投石といった遠距離攻撃手段で戦う後方職だ。
「どうして?それなら慣れている『ガンナー』の方が良いんじゃないの?アレと違ってサプレッサーとか付けられるし」
「それは凡人の発想だ。確かに最初はそちらの方が良いだろう。一般的な武器を使うよりも攻撃力は高く、より遠くの敵に当てることが可能だ」
そう考えた場合、リンネはガンナーに向いている。
「ならそれでいいじゃん。AIMならそっちの方が強いでしょ?音で居場所がバレるとか考えていないだろうし」
「しかし、銃には反動が存在する。威力の高い銃を使えば使うほど、それはより顕著になる。ゲームで学んだだろう?」
「そうだね」
「それはOPEX程度であれば問題は無い。しかし、10㎞、20㎞となるとその差が歴然だ」
銃は、地平線の先を狙うような長射程に向いていない。
「マジで言ってる?」
リンネは正気を疑う目線で聞いてきた。
「無論だ。それに、曲射が使えるため銃では当てられない位置の敵に攻撃が出来る」
どちらかと言えばこちらがメインだ。
射線が通らないというのが一番のイライラポイントだったからな。壁抜きという手段を使えばどうにかなるが、ダメージが減るのが気に入らない。
「流石エイムバカ」
「バカとはなんだ。天才と呼べ」
「まあいいや。というわけで僕のジョブは『ガンナー』、AIMのジョブは『狩人』になったよ。これからステ振りをします」
「俺は既に振り終わっているぞ」
俺はステータスを見た時点で何に振るかは決まっていた。
「まさか」
「当然命中に全てだ」
エイムさえあれば十分だ。
というわけでこうなった。
玉森周人 レベル1
ジョブ:狩人 レベル1
力 15
防御 10
魔力 10/10
魔力耐性 10
俊敏 15
器用 10
命中 30
ステータスポイント 0
スキル
「命中ってここ現実だからミス判定とかないんだよ?普通に当てれば勝ちなんだよ?AIMの実力があれば上げなくても大丈夫でしょ?」
俺の言ったことが信じられないらしく、熱弁してきた。この様子を見るに、俺に最適な振り方を用意していたのだろう。
「そこに命中があるんだから選ぶ以外の選択肢は存在しない」
俺を誰だと思っている。エイムに生き、エイムに死ぬことを心に決めた最強プロゲーマーのAIMだぞ。
「どうなっても知らないからね。僕は普通にバランスよく振るよ」
リンネはステータスを振り終えた後、視聴者に向けて発表していた。
どうやら防御と魔力耐性に厚く振ったようだ。
リンネが言うには、ここはゲームでは無く現実のため死なないように防御面に厚く振ることが一般的らしい。現に今トップのプレイヤーもそういう振り方にしているとのこと。
まあ相手に気付かれぬうちに当てて殺してしまえば問題は無い。
「というわけで今日の配信を終わります。良かったら僕達のチャンネル登録と高評価、お願いします」
「ではまた」
今回はステータスを得ることが目的だったので、配信を終了しダンジョンを出た。
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