お弁当から始まる初恋。いっぱい食べるキミが好き
「しまった!」思わず私は独り言をいってしまう。私の目の前にはお弁当箱。でもその大きさはいつもの倍以上はある。間違えたのだ。父親の物と。今朝はわたわたしていたから確認せず持ってきてしまったのだろう。
「どうした?弁当食わねえの?」そう言って来たのはクラスメイトの
「うん。お父さんお弁当箱を間違えて持ってきちゃって。だから私には多いなって思ってたんだ。」
「そうか。奇遇だな。俺は間違えて妹の弁当箱もってきちまった。俺にはちょっと足りねえ。……何だったら交換するか?」
「いいの?」
「構わねえよ。特にアレルギーは無いし。三沢さんも無かったよな?」
「うん。」
「じゃあ、一緒に食おう。折角だからな。」そう言って小牧君はお弁当箱を差し出してきた。私はそれを受け取って自分が持ってきたものと交換した。
「いただきます。」二人でそう言って各々お弁当箱のフタを開けてみる。そこにあったのは、卵焼きやプチトマト、ブロッコリーに唐揚げなどバランスのとれたおかず。白ごはんの上には鶏そぼろがかけてあった。彩り良く、バランスが取れたとても美味しそうなお弁当だ。
「わぁ……美味しそう!」思わず私の口から感嘆がこぼれる。
「そう言ってくれて嬉しいよ。実は弁当作ったの、俺なんだ。」小牧君は、はにかんで言った。
「そうなの?」人を見た目で判断してはいけないと思いつつ、意外だと思ってしまう。
「ああ。料理するのは好きだからな。お袋の負担も減らせるし丁度いいと思ってな。」
「……格好いいね。」
「よせやい。褒めたって何もでてこないぞ。それに、三沢さんのお弁当も美味しいぞ。」
「ありがとう。お母さんに言っておく。」
そんなふうにして、色々会話しながら食事をした。いつもはさっさと食べて図書室とかに行っていたからなんだかこういうのも楽しくて、新鮮だ。
「ふう。美味かった。ごちそうさん。」色々話しながらであんなに大きな弁当箱だったのに、もう食べ終わってる。
「早食いは体に悪いよ?」と私が言うと、
「すまん。性分だ。せっかちなんだ、俺。」なんて言って片付けまで済ませている。
「三沢さんはゆっくりで良い。弁当箱は後で返してくれれば良いから。」そう言ってそそくさと自分の席へと戻っていった。で、机に突っ伏して昼寝を始めた。
せっかちでマイペース。小牧君はそんな人みたいだ。けれどなんだか嫌な感じはしない。もっと仲良くなってみたいかな。そんなふうに思えた。
−−−−−−−−
あれから、私達は一緒にお弁当を食べるようになった。時折おかずを交換しながら、色々お話して。でもいつも小牧君はそそくさと食べて、すぐ片付けちゃう。少しぐらい食べ終わっても私と一緒に居てくれればいいのになんて思ってしまう。
今日もそうだった。私は小牧君がお弁当を食べ終わった瞬間を見計らって思わず聞いてしまった。
「ねえ、小牧君。私とお昼ごはん一緒に食べてくれるのは嬉しいけどなんでいっつもそそくさ食べちゃうの?もうちょっと食事たのしもうよ。」
「それは……その……」
「何?はっきり言っちゃってよ?」
「……好きな奴の近くに居るの、なんか恥ずかしいんだよ。」
「……へっ!?」私は今、人生で一番マヌケな声を出していただろう。
「だから、何だ。その……つまらなそうにして悪かった。」顔を少しばかり赤くして小牧君は言った。
「いやいやいやいや!そんなこと思ってないから!」それに対して大慌ての私はきっと真っ赤な顔をしているのだろう。
「……でも、弁当美味しそうに食う三沢さんを見ていたかったんだ。……これからも昼飯、一緒に食って良いか?」
「も……もちろん!」実のところ、私もお弁当を美味しそうに食べる小牧君を見てたかったりする。そう言ってくれるのは願ったり叶ったりだ。
「良かった。今後もよろしく。」赤らめた顔でホッとした表情を小牧君は見せる。
「うん。よろしく……。」そう言っている私の表情はどうなっているのだろう。きっと桜でんぶみたいな色になっているのかもしれない。
まだ、付き合うとか恋愛とかそういうのはまだちょっと先の事になると思う。けど、私達のお昼に、春のような彩りがひとつ増えたみたいだ。
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