恋愛・ラブコメ短編集 〜こちら、どこからでも読めます。時、場所、場面よりどりみどりです。お好きな所からどうぞ〜

緑川 湖

片想いと手紙の話

 今日も島野くんは人気者だ。彼の周りにはいつも女の子が居る。私は……その中には入っていけない。なんというか、私のような地味な子が彼の近くには居てはいけないような、そんな気がする。


 私の手元には一通の手紙。彼へ宛てたものだ。想いを込めた手紙、何度書き直したか分からない。……でも渡そうとするたびその勇気は無くそのまま何度も捨ててしまった。捨てずとも無くした手紙を探そうともしなかったこともある。昨日したためたこの手紙もきっと封を切られることなく私の手で処分されて仕舞うだろう。……なんともなさけないものだ。


 「あ、村田ちゃん!おはよ!元気無さそうだけどどうした?」悶々としていると私に気がついた島野くんが話しかけてきた。


 「……私は大丈夫だから。」


 「それにしちゃあ随分と暗い顔じゃんか。女の子は愛嬌だぞ!」


 「私のことなんてどうでもいいでしょ……。」


 「良いわけあるかい。俺お前の暗い顔見るの嫌だぞ?やっぱり笑っていてほしいぜ?」


 「そんなこと言って……誰にでもそんなこと言ってるときっと嫌われるよ?」私はそれだけ言ってぷいと顔を背ける。


 「つれないなぁ!」ちらと目線を向けると、島野くんはちえっという顔をしていた。


 「そうそう!ちょっとふたりきりで話したいことがあるんだ。放課後、教室で待っててくれるかな?」


 「良いけど……何で?」


 「それはそのとき話す!じゃ!」それだけ言って島野くんは自分の席に戻って行った。


 −−−−−−−−

 放課後、私はみんな帰った後の教室で島野くんを待つ。手持ち無沙汰に窓の外を見ると、夏らしい空が見えた。そんな空に浮かぶ太陽を見ながら私は思う。あんな風になれたらと。そんなことを考えてると島野くんはやってきた。


 「すまんね。待たせて」


 「大丈夫。それで話したいことって?」


 「それは……コレのことだ。」そう言って島野くんはポケットから一通の封筒を取り出した。私は驚いた。なぜならそれは何日か前に無くしたはずの物だったから。


 「この間図書室の本に挟まってるのを見つけてね、ご丁寧に宛名も差出人も書いてあって、しかも宛先が俺だったしどういうことか聞きたくてね。あ、もちろん封はまだ切ってないから安心して。」なんで?その言葉が私の頭を埋め尽くしてる間に島野くんは続ける。


 「無くして困ってたろ?こんな綺麗な封筒。どんな手紙かわからないけど、これ一旦返すから改めて俺にくれないかな?お前の手紙だったら何通でもほしいもん。」人によってはクサい台詞とか言うのかもしれない。でも私は格好いいと思う。こんなことを言えちゃうなんて。……でも。


 「ごめん。返して貰うけど、これはあげられないよ。」


 「……そうか。じゃあこれは返すよ。でも、次手紙を書いてくれたら俺にくれないかな?」少し寂しそうな顔で島野くんは言う。その顔を見ると私は少しぐらい勇気を出さなきゃと思えた。


 「……わかった。それだったら新しく書いたのを今持ってるから、それ渡すよ。」


 「やった!ありがとう!」一度手紙を返してもらって、新しい手紙を渡すと彼は笑顔を見せる。でも……手紙を読んだ後もこんな顔をしてくれるか私は……自信ない。


 「さて、と早速だけど読ませてもらうよ!」そう言って島野くんは封を切って止める間もなく手紙を読み始めた。読み進めていくにつれ、顔を赤くしていく。


 「……あの、なんていうか……。好きなら好きって言ってくれれば良いのに……。」


 「……そんなこと言ったって……。私みたいな子、島野くんの好みじゃないでしょ……。」


 「好みってお前……。」まだ顔が赤い島野くんは何かを言いかけてやめた。そして、ぽつりと言った。


 「好きなら好きって言ってくれよ……。お前以外の他の子を好きにならないでいるの、結構大変なんだぞ……。俺なんて散々色んな子から言い寄られるんだからさ……。」


 「……じゃあ、私の事が好きってこと?」


 「……まあな。」


 「だったら……何で告白しなかったの……?」


 「だって……俺みたいなちゃらんぽらんに告白されても傷つくだけだと思ったんだよ……。」バツが悪そうに、目をそらしながら言う。


 「それにさ、お前は俺みたいなの嫌いだと思ったからさ……。」


 「そんなことない!」私は思わず叫んでいた。


 「私……!島野くんのこと……!」そこまで言って私は言葉に詰まってしまった。島野くんへの思いがとめどなく、激流のようにあふれてくる。


 「ごめんな……。本当に……。ここまで想ってくれていたのに気が付かないで。勝手に好かれてないとまで思っちゃって。」


 「……ううん。島野くんは悪くない。私だって島野くんはかわいい子にしか興味ないって思い込んでたもん。」


 「ハハハ……。そりゃひでえや。……まぁ、モテるのをいい気になってんだから文句も言えねえや。」島野くんは自嘲ぎみに笑う。


 「……ねえ、私達、付き合う?」


 「もちろん。」最後にそれだけ言葉を交わした私達は抱擁しあった。ぎゅっとしていると、島野くんの鼓動が感じられた。緊張しているのか早く、けれど力強かった。


 偶然から付き合うことになった私達。願わくばこの関係がずっと続いてほしい。私はそんなことを考えていた。


 −−−−−−−−


 「なあ、ところで村田ちゃん。俺のどんなとこが気に入ったんだ?」


 「ええっと……。島野くんは入学式の次の日の事覚えてる?」


 「あぁ。確かあの時は買ったばかりの定期落とした子が居たから二人で探して、見つかりはしたけど結局二人とも遅刻して先生に叱られたっけな。」


 「その時のドジな女の子が私。」


 「ほんと!?ゴメン!俺忘れてた!」


 「ううん。いいの。それでね、よく知らない人の為に頑張る姿を見て好きになったの。」


 「そうだったんだ……」


 「島野くんはどうして?」


 「俺は……初めて容姿じゃない所を褒めてくれたのが村田ちゃんだったからかな。」


 「そうなの?」


 「うん。みんな俺の事ハンサムとか言うけど、それってさ、外側だけの評価だからさ。本当の自分をさらけ出すとみんな離れて行っちゃうんじゃないかって思っててね。」


 「……私はそんなことないと思うよ。島野くんはみんなに優しいから。」


 「それさ。そうやって褒めてくれたからさ、俺は見た目だけじゃない、人としてちゃんと生きて行けているって思えるようになってね。……そう言ってくれた村田ちゃん好きになったんだよね。この人なら自分を見てくれているって。」


 「そうだったの。……なんていうか、私達最初から同じ方向見ていたのかもね。」


 「そうかもな。……これからも同じ方向見て歩いていけたら良いな。」


 「そうだね。」

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