密室という名の手術台

アキンフェンワ

密室という名の手術台

 目を覚ますと俺は薄暗い部屋にいた。周りを見渡すと壁に囲まれていて、壁と壁の合間からは微かな光が漏れ出している。そう、俺は密室に閉じ込められていたのだ。自分の体を見ると見慣れない水色のガウンを羽織っていた。


「一体ここはどこなんだ。俺は昨日まで普通に生活していたはずだが、ここに閉じ込められるまでの記憶がないな」


 俺は状態を起こして壁を確かめるために壁に近づいた。手で壁を叩くとコツッコツッという高い音が室内に響き渡った。音からして分厚くて頑丈そうだ。


 俺はだめもとでここから脱出すべく壁に体を押し当てて、壁が壊れることに期待したがうんともすんとも言わなかった。


「はあ、どうして俺はこんな場所にいるんだよ。思い出せ俺! 誰か助けてくださいーー」


 もちろん叫んでも誰からも返答はなく静寂が広がっているだけだった。


「もしかしてこれって夢か」


 俺は自分の頬をつねって確かめたが、ただただ痛いだけだった。


「痛っ」


 腕に猛烈な痛みが走った。見てみると百足が鋭い牙で噛み付いていたのだ。毒を体内に注入され視界がぼやけ始める。俺は気を失って倒れた。


 再び眠りから覚醒する。また同じ密室に俺は横たわっている。先程と言っていいのかわからないが、百足に刺された跡は無かった。


「全くさっきのはなんだったんだ。死んだと思ったのにまた生き返るし」


 腹の当たりが濡れている気がしたため手を伸ばしてみる。確かに濡れていた。何がついているのか顔に持ってきて確かめると、それは血だった。でも痛みは全くない。どこから出ているのか見てみると腹が裂けてそこから流れ出ていた。


「なんで痛みがないんだよ! やばいこのままだと死ぬ……」


 裂け目をまじまじと見た衝撃からかまた気を失った。


 三度目の覚醒をする。またもや同じ部屋だ。もうそろそろこのくだりは飽きた。


 ブオーーーーーーーーーン ブオーーーーーーーーーン


 重低音がとてつもない大きさで部屋に鳴り響く。俺は両耳を手で必死に押さえた。数十秒ほどその音が鳴り響くと突然止まり、再び静けさが広がった。


 遠くの方から誰かが俺のことを呼んでいる声がする。その声は段々と近づいてくる。


「……さん、……ますか? 遠藤さん、聞こえますか?」


「誰の声だ?」


 密室の壁が崩壊し始める。部屋の中に光が差し込み思わず目をつむる。


「遠藤さん?」


 再び目を開けると顔の上に看護師の姿があった。


「手術は無事終わりましたよ」


 ……そうだ俺は手術を受けていたのだ。

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