第31話 黒歴史

「くくっ、くくくくっ。」


国王はミラナリアがサインした書類を見ると何やら笑いだしてしまう。公爵にとってはその笑いが何よりも恐ろしいのだ。


この笑いは何かがおかしい、公爵の頭の中ではその警告だけが響き渡っていた。しかし、その違和感が何によるものなのか、それだけが分からないでいた。


「ミラナリア、その書類はいったい何なんだい?きみはいったい何の書類にサインをした?」


「えっ?特に気にしていなかったので分かりません。王様が理想の生活を叶えてくれるらしいので何も見ずにサインをしました。」


「ちょっと!サインをするなら内容くらい確認しようよ!」


ミラナリアは国王に諭されて何も確認せずにサインをしたのだ。その事実に、公爵は急に怖くなってしまい、国王に書類の内容を確認する。


「へ、陛下、その書類はいったい何の書類なんですか?」


そんな彼の質問に答えた国王の答えはあまりにも残酷だった。いや、この場合、残酷と言ってしまえばミラナリアには失礼かもしれない。本人には公爵をはめようとした気はなかったのだから。


「ん?これでお前たちは婚約者になったんだよ。良かったな、お前にも相手が見つかって。」


「すみません、私の耳が誤作動を起こしたようなのでもう一度言っていただけますか?」


公爵は国王の発言が嘘ではないかと耳を疑っていたが、これは現実だ。


「なんだ?この年から耳が悪いようじゃ、年を取った時に困るぞ。もう一回、言うからよく聞いておけよ。お前とミラナリアは婚約者になったんだよ。ほら、これを見てみろ、ミラナリアのサインがあるだろ?ちなみに、お前の場所にはちゃんとサインがあるぞ。


だって、前に言っていただろう。”結婚なんて誰とでもいいですよ。陛下のお好きな相手と政略結婚でもしておいてください。私のこの身は国のためにあるんですから。”そう言って、自分のサインだけをかいた婚約の書類を俺に渡したじゃないか。


流石にあの時は良く、あんな恥ずかしいセリフを吐けるなって思いながら、とりあえずは書類を受け取ったけど役に立つときが来たな。なかなか婚約させてやれなかったから、お前に相手ができて良かったよ。」


国王はそれは、それはいい笑顔でニヤニヤと公爵を見つめている。


「へ、陛下――――――!」


公爵はそんな国王の行動を見てようやく気が付いたのだ。国王にはめられたと。もっとも、半分は過去の自分がカッコいいと思って行った行動のせいなのだが。

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