第30話 悪魔の契約書

流石の国王であっても、彼女がここまでヤバイとは思っていなかったのだろう。先ほどは二人が固まっていたが今は国王が固まってしまっている。


「お、おう。その通りだ、ミラナリアのせいで国が滅んだんだから、ただでやらせろって言ってたな。俺が言うのもなんだけど、容赦ないな。」


「陛下、彼女は元からこうなのです。彼女に自己犠牲の精神を説いても鼻で笑われるだけです。」


「当たり前じゃないですか!自己犠牲の精神?それって体のいい押し付けのことですよね?そんなに自己犠牲が大切なんていうのであればそいつを犠牲にすればいいんですよ。


だって本人が自己犠牲を正当化しているんですから。私は絶対にタダ働きなんてしませんよ!そんなことをして喜ぶのは自分を犠牲にした経験がないからです。」


「まぁ、最後のことには同意するが、困ったな。今はミラナリアの話を聞いた国の奴らが王都にたくさんいるんだよ。


そんな奴らとミラナリアを会わせたら無理やり連れていかれるんじゃないか。ああいうのは、自分を犠牲にして働かせようとする連中ばかりだからな。それが通用しないなら、無理やりやらせる手段しかないだろう。」


しかし、ここで国王はミラナリアと公爵の両方を交互に見てニヤリと笑みを浮かべる。そんな国王の顔を公爵はよく知っている。これは絶対に面倒を押し付けられる顔なのだ。こういう顔を国王がしている時は大抵、自分だけが苦労して国王は知らん顔だ。


「なぁ、ミラナリア、この見合いの書類を見るのは大変だろ?これを無くせる方法があるんだが、どうする?しかも、今ならこの作業を止めたとしてもメイドの世話が無くなることはない。


さらに!ず~っと、ぐ~たらな生活を続けることが出来るんだ!最後に!面倒な国の奴らを相手にする必要のない大義名分も手に入る!そんな魔法のような生活があるんだが、どうする?」


「ほ、ほんとですか!そんな夢みたいな生活を送れる方法があるんですか?」


「あぁ、サクラ王国の国王として約束しよう。俺の頼みを聞いてくれれば絶対に叶えてやるよ。なに、書類に一枚、サインをするだけだ。それだけで何もかもうまくいく。」


「はい!書類でも何でもサインします!どこですか、今すぐにサインします!」


しかし、これは悪魔の契約書であったのだ。


「おぉ、これだ。ここにミラナリアのサインをしてくれればいい。それだけで理想の生活を送ることが出来る。」


こうして、ミラナリアは国王から差し出された書類にサインを行い、悪魔の契約書は効力を発揮してしまうのだ。


おもに、公爵にとっての悪魔の契約書ではあるが。

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