うっかり少女は学園都市で恋がしたい

いつきのひと

うっかり少女は学園都市で恋がしたい

 私は激怒した。

 あの男の悪行を絶対に許すわけにはいかない。

 目には目を。報復を。これは古来より伝わる偉人の教え。

 私はこれより復讐の鬼となる。


 今の私は何をされたのかを人前で語ることができない。

 あの男は私を弄り回した。許さない。


 報復の準備は整えた。予想できる言動への対策もした。


 誰に何と言われようとも、今日、決行する。

 失敗すれば私の全てが終わる。それは覚悟の上。

 例え誰にも認められなくてもいい。やらねば私が気が済まないのだから。



 そんなわけで全く別の学級の生徒とも会える場所、学園都市内のショッピングモールへとやってきたのである。

 学園の校舎内は接触を避ける為の魔法によって顔を見る機会を与えらていない。だがそれは校舎だけでの話。一旦外に出てしまえば我々は自由。

 校舎外では容易に接触できてしまうのを放置しているのは、管理側の落ち度であり見逃しであり怠慢なのである。

 だが悪い事ではない。その片手落ちのおかげで我が復讐が果たせるのだ。


 多岐に渡る魔法使いについてのあれこれを教える学園が都市に一つだけというのも解せない。

 分野ごとに学校自体分けられていれば、あんな男との接触は無かったんだ。


 そんなことを考えながら相手を探す。奴は必ずここへやってくる。何故そうだと言えるのか。それは簡単なことだ。私が誘い出したのだ。


「モールの入口の時計下で10時に待ってます。」


 いかにも女子を思わせる小さく丸いかわいらしい文字を、淡い色で印刷された抽象的にデフォルメされた動物たちのイラストが儚いながらも存在を主張している紙に記した。いわゆるラブレターというやつだ。

 出した相手私であることを知ったアイツの顔を見るのが楽しみだ。浮かれただらしない顔が恐怖に変わって引きつる顔が見たい。

 さあ来い、我が仇敵。




 同時刻、魔法学園のとある教室にて――


「何してるの皆。」

「おうクロード、ちょっと手伝ってくれよ。」


 皆に遅れて教室に到着したクロードの前には、異様な光景が広がっていた。

 クラスメイトの男女それぞれ二名、合計四人がパズルを組み立てているように見える。だがよく見てみるとパズルではない。そのピースはやけに細長い。


「聞いてよクロード、このバカ、ラブレターを読まないでこんなことにしちゃったのよ。」

「マッシュは乙女心を覚えたほうがいいです。下駄箱爆破しかけるとかどこの少年傭兵ですか。」


 友人の一人が同じく友人の女子二人にボロクソに言われてしまっている。


「だってなあ、下足入れにある手紙なんて不審物以外なんでもないだろ。」


 マッシュ曰く、今朝登校したところ自分の下足入れに不審な紙切れを発見した。即座に爆発するような危険物ではなかったが、自分が触れた瞬間発動するトラップが仕掛けられているかもしれない。だから居合わせた、魔法の扱いは自分達よりも上手い同じクラスのアサヒに確認を頼んだ。自分以外が触れれば安全と確認が取れても危険物である可能性を除外できない。


 マッシュはラブレターというものがわからない。手紙を出したり受け取ったりなんて今まで体験したことがなかった。

 安全だと言われていても、手に取った瞬間何か危険なものを感じた彼は、制止も聞かず内容を読まずに切り刻んでしまったのだ。


「なあ、やっぱ魔法使ったほうが……」

「ダメよ! あんたは差出人がどんな思いでこの手紙を書いたのかよーーーく考えなさい!」


 早々に諦めているマッシュはナミに怒られながら復元作業を進めている。その二人とバラバラの紙片をはさんで反対側で作業しているポールとアサヒも手は止まっていないが難航しているようだ。


「直さなくても魔法で読めないかなあ。」

「なぜか読めませんので、復元してみないと。」


 何だかよくわからないが、手を出さないわけにはいかないようだ。やれやれ。





 日没が過ぎ、私は街灯の明かりに照らされぬように陰に隠れていた。


 来ない。

 アイツが来ない。


 手紙は間違いなくあの男の元に辿り着いた。追跡の魔法でそれは分かっている。だが何故だ。

 彼女無しの男があんな手紙を受け取って、釣られないわけがない。ならば気付かれたとみるべきだろう。

 意図しないものに改変されぬように魔法をかけておいた。その徹底さがいけなかったのか。


 帰ろう。作戦は失敗だ。

 遅れて来たとしてもそんな長時間待ち続ける相手などいるわけがないだろう。

 今日がだめでも時間はある。また別の手を考えよう。


「十時が二十二時じゃないってどうして言い切れるの!」


 立ち上がろうとしたところで、誰かの声がした。こんなところに潜んでいるのを怪しまれてはいけない。隠れ続けよう。


「アサヒさんが先生に同じ内容の手紙貰ったら待つよね!?」

「そんな夜中に来いっていうのが怪しいです。先に先生に確認取ります。」

「現実的なのもアサヒさんらしいわ!」


 特別学級の女子二人だ。

 休日なのに制服で街を歩くなどと、ファッションに興味が無いのかこいつらは。


「授業中の平日十時に呼び出すなんてありえないじゃない! 絶対夜よ!」

「昼だったら授業サボる事になるし、夜は夜で深夜徘徊ですよね。」


 どうやらクラスメイトに手紙の内容を内容を漏らしたらしい。自慢したのか。したんだろう。そうに違いない。卑しい男だ。

 それにしても何かがおかしい。今日は休日だろう?


 時計には日付や曜日も表示される。わたしは待った。


 今日は、平日だ。休日ではない。

 そうだ、手紙には今日としか書いていなかった。


 暗がりの中で隠れ続けるわたしの手落ちが見えてきた。平日と休日を勘違いしていた。

 だいたい、休日に登校など、用事が無い限りするわけがない。手紙が今日ちゃんと届いたのは偶然の奇跡だったのだ。


 なんだこの失敗は。こんな失敗では、他人の事を言えないではないか。

 それもこれも全てはあの男のせいだ。憎しみは募るばかり。絶対に許す事などできない。



 アイツを彼女という立場で縛りつけてやろう。

 趣味嗜好と私とどちらが大事かを選ばせよう。奴の金銭を管理してやろう。全て捨てて私に貢ぐよう教育しよう。

 付き合う相手を選ばせて私だけを見るように洗脳してやろう。


 容姿端麗成績優秀品行方正、そして清廉潔白なこの私の下着を見たのだ。見ていながらにして、あの態度なのだ。

 絶対に許すものか。




 特別学級の教室にて。

 手紙の復元に成功し、幸いなことに手紙の文面も問題なく読み取れたが、内容が呼び出しのラブレターだったのでポールとナミが大きく沸き上がった。


 女っ気のない彼への呼び出し。大事件である。

 手紙の内容をよく読んでみるよりも早く、身に覚えがないかの詰問が行われていた。


 彼はとても真面目である。ただ真面目過ぎて相手への配慮が若干欠けている。

 無意識なまま恨みを買ってしまったり、恩を大安売りしてしまったのかもしれない。


「アサヒとナミ以外だと、スカート巻き込んでパンツ丸出しにしてる子居たから教えてやったくらいだけどなあ。」

「その下着に関して何か言った?」

「なんか股のとこからヒモはみ出してたからしまっとけとは言ったけど、それ以外には特に何も。」


 なにかと見落としの多い彼女と彼との関係はここからしばらく続くことになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うっかり少女は学園都市で恋がしたい いつきのひと @itsukinohito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る